世界で最初にレジ袋を禁止にした国は?
いよいよ今日から日本もレジ袋有料化がスタートですね。よくわからない例外規定があったり、エコバッグでコロナに感染するリスクが?と話題になったりしていますが、とにもかくにもスタートです。
ちなみに、エコバッグ利用によるコロナ感染リスクを気にしても仕方ない、と専門家も明言されていますのでご安心を。
エコバッグ、コロナリスクは? 専門家「気にし過ぎ不要」―レジ袋有料化
専門家らは「エコバッグとレジ袋のどちらが清潔だという根拠はなく、気にし過ぎは良くない」と、過剰な心配は不要と訴える。
時事通信2020年7月1日
さて、日本ではやっと(例外もありつつ)有料化がスタートしましたが、世界の状況はどうなっているのでしょう?
少し古いデータになりますが、国連環境計画(UNEP)の2018年の報告 によると、127ヵ国がレジ袋に対するなんらかの法規制を実施しており、うち83ヵ国は無料配布を禁止していました。特に発展途上国では、廃棄物処理の社会的なシステムが十分ではないこともあってごみ問題が深刻化していることを背景に、アフリカでは25ヵ国、アジアでは14ヵ国が国あるいは地方自治体でレジ袋の無料配布を禁止していると報告されています。
レジ袋の製造・無料配布・輸入を禁止している国
出典)UNEP(2018) ”Legal Limits on Single-UsePlastics and Microplastics:A Global Review of National Laws and Regulations", p.16
ちなみに、プラスチック製レジ袋を最初に「禁止」した国はどこでしょう?
それはバングラデシュと言われています。バングラデシュでは、プラスチックごみにより雨水の排水が阻害され大規模な洪水が発生したことから、2002年にプラスチック製レジ袋の提供を禁止しました。ちなみに、レジ袋禁止によってもたらされた社会的な便益は、約5億8500万タカ、当時の為替レートで約10億円の効果 があったとされています(Ahmed and Gotoh, 2005 )。
外部性という問題
私は経済学を専門としていますが、経済学においてはごみ問題をはじめとした環境問題は、「外部性」 によってもたらされる問題であると考えます。
外部性とは、ある経済主体の活動が市場を経由することなく、他の経済主体に影響を及ぼすこと をいいます。
外部性が他の経済主体にとってプラスの影響をもたらす場合には「正の外部性」(あるいは外部経済) 、マイナスの影響を与える場合は「負の外部性」(あるいは外部不経済) といいます。
和歌山県・友ヶ島の海岸に漂着したごみ
では、外部性がきちんと価格に反映されないと、どうしたことが起こるでしょう。
もし正の外部性 が存在する場合、その財がもたらすメリットが適正に価格に反映されないので、自由な市場においては社会的に望ましい水準に比べて過小供給 となります。
一方、負の外部性 が存在する場合、その財のもつデメリットが費用に反映されないため、社会的に望ましい水準よりも過大に生産 が行われ、より大きな被害をもたらすことになります。
このことを図を使って説明してみましょう。
負の外部性と厚生損失
縦軸に価格(P ) 、横軸に財の生産量(X ) をとります。
モノ(財)の価格が高いと少ししか買えませんし、安くなるとたくさん買えますよね。ですので、ある財に対する私たち消費者の需要量と価格の関係を示す需要曲線(D ) は右下がりの線として描かれます。
数学では、直線は曲線の一部(傾きが常に一定のもの)です。なので、需要「曲線」といいます。
一方、生産者の場合はというと、モノ(財)を作れば作るほど追加的に費用がかかります。これを限界費用(Marginal Cost: MC ) と言い、一般的には右上がりの線として描かれます。
余談ですが、少し前に「限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭」(ジェレミー・リフキン、2015)という本が注目を集めました。IoT(モノのインターネット)インフラへと急速に移行することで、モノやサービスを追加的に生み出すコスト(限界費用)が限りなくゼロに近づくため、将来モノやサービスは無料になってシェアリングエコノミーが広がり、資本主義経済は大きく変わる、というお話です。この「限界」という言葉はmarginalの訳で、数学でいう微分のことですが、経済学を学び始めたばかりの学生が戸惑う言葉の代表格ですね。
さて、生産者は原材料価格や人件費、光熱水費といった「目に見える費用」は簡単に把握できます。この「目に見える費用」のことを私的限界費用(Private Marginal Cost: PMC ) といいます。そして、いくつかの前提条件を満たすとき、私的限界費用曲線(PMC )と供給曲線(S )は一致します。
何もしなければ、消費者の需要曲線(D ) と私的限界費用曲線(PMC ) の交わるところ(E' ) で、生産量(X' ) と価格(P' ) が決まります。
VIDEO
ところが、レジ袋をはじめとした使い捨てプラスチックは、生き物やヒトの健康への影響だけではなく、埋め立てごみの急増や焼却処分による温室効果ガスの増加、そしていつまでも分解しないことで海のプラスチック汚染を引き起こすなど、さまざまな環境問題の原因となっています。さらにはいったん環境中に流出したプラごみを回収するためには膨大な労力が必要です(というよりは回収不能です)。使い捨てプラスチックは負の外部性を持つ典型的な財といえるでしょう。
こうした社会全体におよぼす負の影響も含めたものが社会的限界費用(Social Marginal Cost: SMC )です 。
社会的限界費用(SMC ) と私的限界費用(PMC ) の差が外部性 の大きさになります。ただし、それがいったいどれくらいの大きさになるのかは「よくわからない 」というのがポイントです。だって、市場の「外部」の話なのですから!
さて、社会全体で見たときに望ましい生産水準(X* )は、というと、需要曲線(D ) と社会的限界費用(SMC ) の交わる点(E )で決まります。
負の外部性(外部不経済)が存在する場合、社会的に望ましい価格よりも安く(P*→P' )、社会的に望ましい量を超えて生産(X*→X’ ) されてしまいます。
より安く、より多く、そりゃあいつまで経っても問題は解決しないわけです。
ちなみに、難しい説明は割愛しますが、負の影響は社会全体に損失をもたらします。それが図中のEE'F であらわされる厚生損失 です。簡単に言うと、社会から失われた「価値」や「富」 です。より豊かになりたければ、すなわち社会的厚生を高めるためには、何とかしてこの厚生損失を無くさないといけません。
たとえば碓井・田崎(2016) では、全国のスーパーやコンビニを対象に、レジ袋などの容器包装について1)有償提供、2)景品等の提供、3)繰り返し使用可能な買物袋等の提供、4)消費者への意思、5)容器包装の量り売り、を比較したところ、1)有償提供だけが削減の効果があることを明らかにしています。
レジ袋もタダで配るのではなく、有料化(有償化)したほうがよさそうですね。では、レジ袋の「価格」はいくらであればいいのでしょう? 社会的に望ましい生産量(X* )において、生産者が認識できる私的限界費用(PMC )はP' となります。でも本当は、レジ袋の価格はそれより高い、需要曲線(D )と負の外部性を含む社会的限界費用(SMC )の交点(E )から導かれるP* でないといけません。
レジ袋有料化、といっても多くのお店では、せいぜい数円どまりです。それは単なる資材価格として、従来は商品価格に含まれていたレジ袋の費用を、私たち消費者に「見える化」しただけ。何か追加的に上乗せされたわけではありません、「有料化」されたわけではないんですよね 。
もちろん、「見える化」に一定の効果があることは事実ですが、本当に社会的に望ましい水準までレジ袋の使用量を減らせるのか、というと大いに疑問が残ります。
実際のところ、いったいレジ袋は何円にすればいいのでしょう?あるいは、ほかの方法はあるのでしょうか?次回はそうしたことを考えてみたいと思います。ではまた!
最近のコメント