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2020年11月

2020年11月23日 (月)

ペットボトルはマイクロプラスチック化しない?

ペットボトルは頑丈?

ニュースを読んでいると、ある記事が目に留まりました。

「ペットボトルはマイクロプラスチックにならない」 河川に長年放置された230本を分析して確認 PETボトルリサイクル推進協議会

"一般的に海に流出したPETは、長きにわたり紫外線や波の力を受けることで壊され小片化・微細化すると言われているが、同協議会が河川に約20年間放置されたPETなどの劣化状態を分析したところ若干の劣化とクラック(亀裂・ひび割れ)が認められた程度であったことが判明した。"

"「PETは非常に紫外線に強い樹脂なので業界人の間ではマイクロプラスチックにならないと感覚的にわかっていたが、18年の台風によって愛知県の庄内川と新川の中堤防で20年以上前に製造されたPETが多くサンプリングできたことで確認できた」と秋野卓也専務理事は振り返る。"

"同協議会は、これらのPETを無作為に460本回収し、PETに刻印されているメーカーの協力を得て230本の製造年(販売年)を特定。次に、特定できたPETと同形状で現在も販売している未使用のPET用いて劣化の状態を評価した。"

食品新聞 11/22 10:02 配信

記事の元になった、「PETボトルリサイクル年次報告書」はこちらです。

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写真:この調査が行われた、2018年の台風21号の出水により庄内川に漂着した大量のペットボトル(2018/9/7撮影、一般社団法人clearwaterproject提供)

 

母集団とサンプル数

驚きました。

日本も含め、世界中の海岸には劣化して、衝撃も加わって割れたペットボトルはいくらでもあります。そもそも、統計学的に230本というサンプル数は母集団(流出したペットボトル=少なくとも毎年4,000万本)に対して少なすぎるでしょう。

どれくらいのサンプル数が必要なのかは、ちょっとした計算で求められます。たとえば、こちらのリンク先をご覧ください。

ただ、環境中でどれくらいのペットボトルがマイクロプラスチック化しているのか、誰にも分りません。母集団のうち、ある事象が起こる確率のことを母比率(たとえば、環境中に流出したペットボトルがマイクロプラスチックとなる確率)といいますが、その予測が困難な場合は50%とすると最も安全なサンプルサイズを求めることができます。

これをもとに、誤差5%、信頼区間95%の必要なサンプル数を求めると、385となります。余談ですが、アンケートなどの社会調査では、大体これくらいのサンプル数(回答)を集めることを目標に配布数を決めますね。

このペットボトルの調査の230本というサンプル数は、「ペットボトル(PET)がマイクロプラスチックになるような兆候は見られなかった」というのには、いささか少ないように思います。

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河原の草むらに隠れていたペットボトルがそうそう簡単にマイクロプラスチック化しない、ということがわかっただけの話ですし、流れ出したペットボトルは今後、何百年も海を漂い続けるということを考えると、「現時点では、マイクロプラスチック化しているものはそれほど多くないと考えられる」という程度の話ではないでしょうか。

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PET協の方、業界紙の記者さん、どちらがどういう解釈をされているのか記事だけでは分かりませんが、いずれにせよ今のPETボトルの使用と廃棄をめぐる状況が持続不可能なモデルであることは確かです。

ちなみに先ほどのPETボトルリサイクル推進協議会の年次報告書では、「年代分布では2011年度以降減少傾向が見られます。 これは、使用済みPETボトルの回収率の向上に関係する可能性もあり、注目されます。」とは述べられていますが、PETボトルがマイクロプラスチック化しないことが確かめられた、とは書かれていません。

四日市大学 環境情報学部の交流ブログでは、この調査を担当された千葉先生は、

庄内川・新川河口の漂着ペットボトルの調査について中日新聞に掲載されました(千葉)2018年12月15日

"2018年10月23日に無作為に拾った232本のペットボトルの中から製造年代を推定できた85本についての年代分布。2011年以降、減少傾向が見られる。ペットボトルの回収率の増加、本地域での清掃活動の効果、気象変動などの要因が推定されるが、現状は不明である。"

と記されています。回収率の向上で近年のペットボトルが少なくなったのかどうかすら、断定はできないといえるでしょう。

丈夫であるがゆえにいつまでも環境中に残り続けること、何よりマイクロプラスチック化することだけが海洋プラスチック汚染ではないことは自明です。

 

ペットボトルはどれくらいで劣化するのか?

気になったので海外の論文も調べてみました。

PETボトルの海洋での劣化については、2016年にエーゲ海で回収されたサンプルの分析がおそらく初出と思われます。

まあ、15年程度は劣化しませんよ、という結論が導き出されています。もちろん、サンプルとして用いられたペットボトルは、商品の製造時点を推計できる消費期限が確認できた「いい状態」のものが評価対象です。

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また、たとえマイクロプラスチック化しなかったとしても、今でも海底にも大量のペットボトルが沈んでいます。私たちが関西広域連合で行った調査では、

"ペットボトルは水や土が入ると海底に沈む。紀伊水道の友ヶ島の近くの深くくぼんでいるところで底引網を引くとペットボトルしか網に入らないことがある。"
関西広域連合琵琶湖・淀川流域対策に係る研究会 海ごみ発生源対策部会 報告書 参考資料 p.21

かつての豊かな漁場が海底に沈んだペットボトルで失われている、漁業にとっては今そこにある「現実の脅威」です。

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そして、河岸や海岸に大量のペットボトルが打ち上げられていることによる景観破壊も、大きな経済的損失であることはいうまでもありません。

確かに日本におけるペットボトルの回収率は、世界的に見ても高いのは事実です(何の経済的なインセンティブが無いにも関わらず、9割のペットボトルが回収されているのは、多くの消費者の無償の努力の結果です)。しかし、回収率が高いにもかかわらず、河岸や海岸は大量のペットボトルが流れ着いています。根本的な対策は急務なのは言うまでもありません。

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私のFacebookページで、この記事のことを取り上げたら、いつも河川清掃をされている方から、

"河川で葦などに引っ掛かっているのはほぼ動き無いので傷つきも少なく綺麗なモノが多いですね。増水し浮いたペットボトルが河口から出たてのモノも綺麗。でもその後は砂、岩、波で表面の状態が変わりますね。"

「好条件が重なった結果、数十年間経ってもマイクロプラスチック化しなかったものを調べたら、ペットボトルはマイクロプラスチック化しないことがわかりました」というのが正しい解釈ではないでしょうか(それは当たり前です・・・)。

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もちろん、PETボトルリサイクル推進協議会などが掲げる、ペットボトルの100%リサイクルの実現には異を唱えるものではありませんし、むしろ一刻も早く実現させてほしいと思っています。ただ、その実現のためにも、石油に依存した今のペットボトルの大量生産、大量消費を見直さなければいけないことは言うまでもありません。

いろいろなことを感じた記事でした。

では、また!

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2020年11月 5日 (木)

プラごみ問題とアメリカ大統領選挙

プラスチック汚染からの脱却法と大統領選挙

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NY市内のスーパーマーケットのごみ箱(撮影:2019年8月16日)

最終的な結果が明らかになるまで、もう少し時間がかかりそうなアメリカ大統領選挙です。今回の選挙では、気候変動対策を始め、環境政策に対する両候補の政策には大きな違いがありますが、プラスチックごみ問題についてもそれは同じです。

ネット上には、大統領選挙におけるプラスチック汚染への姿勢を比較した記事もいろいろと見つけることができます。たとえば、

では、両候補だけではなく、緑の党とリバタリアン党の候補の政策についてもわかりやすく解説しています。また、日本語のウェブサイトでは、ナショナルジオグラフィック日本版での解説が、環境政策全般について両候補の違いを分かりやすく解説しています。

さて、日本ではあまり報じられていませんが、両候補の姿勢に大きな違いが予想されるのが、Break Free From Plastic Pollution Act(プラスチック汚染からの脱却法、とでも訳すといいでしょうか)への対応です。

今年2月11日に、民主党のAlan Lowenthal議員とTom Udall議員によって連邦議会に提出されたこの法案は、成立すればEUや中国をしのぐ、現時点では世界でもっとも進んだ(そして厳しい)プラスチック汚染対策となる可能性があります。

そして、トランプ氏、バイデン氏のどちらが大統領になるのか、によってこの法案の命運も大きく変わると考えられています。

 

プラスチック汚染からの脱却法のポイント

  1. 拡大生産者責任の導入
  2. 全国での飲料容器へのデポジット制度の導入
  3. 使い捨てプラスチック製品の段階的な廃止
  4. レジ袋有料化
  5. リサイクル素材の使用義務化
  6. リサイクルと堆肥化の促進
  7. 電子タバコを含むタバコフィルターや漁具の影響評価と対策の立案
  8. 廃プラスチックの発展途上国への輸出禁止
  9. 地方政府によるより厳しい規制政策の保護
  10. プラスチック生産施設の新規建設の一時停止と影響評価の実施

出所:原田禎夫(2020)「世界で広がる脱プラスチックの動き」生活協同組合研究, 2020年9月号,Vol.536, pp.5-13.

 

この法案では、2022年から様々な使い捨てプラスチック製品を段階的に規制するだけではなく、全ての素材を対象として拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR)の導入を求めるものとなっています。

また,容器包装類や食器類だけではなく、現時点では他国ではまだ包括的な対策が講じられてこなかったタバコや漁具の遺棄に関しても、その影響評価と対策の立案に取り組むとされています。

さらに、アメリカではシェールガス革命によって天然ガスの供給量が増加したことで、それを原料としたエチレン生産も拡大し、各地で大型のエタンクラッカープラント(*)の建設が計画されています。これは、安価なプラスチック製品の国内生産の急増にもつながることもあり、新規建設や拡張計画の一時停止を求めるとともに、環境悪化を招かないよう大気汚染防止法や水質保全法の改正も求めています。

* エタンクラッカー:天然ガスに含まれるエタンを原料としてエチレンなどの化学材料を生産する装置のこと。

特に、エタンクラッカープラントへの対応は、まさに両候補の、そして民主党と共和党の姿勢が大きく異なる点でもあり、トランプ氏は「地域経済を破壊する!」と訴えて少なくない支持を得てきた一因でもあります。

しかし、民主党の大統領候補であるバイデン氏が当選した場合、この法案にも署名するとみられています。

 

アメリカの環境政策と地方政府

ところで、環境政策に後ろ向き、と考えられがちなアメリカですが、自動車の排ガス規制が有名ですが、州政府や自治体レベルでは、むしろ世界的に見ても厳しい規制に取り組んでいる例も少なくありません。

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ハワイのスーパーでは、紙袋が当たり前です。(撮影:2018年5月27日)

たとえば、ハワイ州では2015年にホノルル市で条例が成立したことで、全米で最初にプラスチック製レジ袋の提供が州全体で禁止された州となりました。今年1月1日からは、生分解性プラスチック製レジ袋も提供が禁止されています。

また、世界最大の都市、ニューヨーク市では2020年1月1日から発泡スチロール製トレイが使用禁止となり、レストランやカフェ、屋台でのテイクアウトメニューは堆肥化可能な紙容器で提供されています。違反した場合は、日本円で最高10万円の罰金となっています。

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紙製食器で提供される屋台のメニュー(撮影:2019年8月16日)

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発泡スチロール製トレイの禁止について報じる日本語情報誌「NYジャピオン」(撮影:2019年8月30日)

また、ニューヨーク州でも2019年1月1日からプラスチック製レジ袋の提供を禁止しており、今年からは州全体で発泡スチロール製容器の提供も禁止されました。

ニューヨーク市での発泡スチロール製トレイの使用禁止は、実は小学校の子供たちの運動から始まりました。その様子が、「マイクロプラスチックストーリー ぼくらが作る2050年」という素敵な映画になっています。ぜひご覧ください!(映画の中では、エタンクラッカープラント問題についてもわかりやすく解説されています)

トランプ政権下でも、海洋プラスチック問題に取り組む法律「Save Our Seas(SOS)2.0 Act」が全会一致で可決・成立し、プラスチック・イノベーション・チャレンジというプログラムも始まっています。ただ、このプログラムはリサイクルの推進が中心で、根本的なプラスチックごみの発生抑制に踏み込んだものではありませんでした。

 

日本もこのままでいいのか?

日本も、まるでアメリカに歩調を合わせるかのような、リサイクル中心の取組にとどまってきました。こうした点について、環境NGOは共同で「政府のプラごみ問題施策方針へのNGO共同提言 -代替品や熱回収より「総量削減・リユース」を-」を提出しています。

アメリカで政権交代が実現した場合、脱炭素社会、そして脱プラスチック社会に向けた世界の流れも大きく動くことは間違いないでしょう。日本が果たしてこのままでいいのか、私たちも問われています。

 

では、また!

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