ペットボトルはマイクロプラスチック化しない?
ペットボトルは頑丈?
ニュースを読んでいると、ある記事が目に留まりました。
「ペットボトルはマイクロプラスチックにならない」 河川に長年放置された230本を分析して確認 PETボトルリサイクル推進協議会
"一般的に海に流出したPETは、長きにわたり紫外線や波の力を受けることで壊され小片化・微細化すると言われているが、同協議会が河川に約20年間放置されたPETなどの劣化状態を分析したところ若干の劣化とクラック(亀裂・ひび割れ)が認められた程度であったことが判明した。"
"「PETは非常に紫外線に強い樹脂なので業界人の間ではマイクロプラスチックにならないと感覚的にわかっていたが、18年の台風によって愛知県の庄内川と新川の中堤防で20年以上前に製造されたPETが多くサンプリングできたことで確認できた」と秋野卓也専務理事は振り返る。"
"同協議会は、これらのPETを無作為に460本回収し、PETに刻印されているメーカーの協力を得て230本の製造年(販売年)を特定。次に、特定できたPETと同形状で現在も販売している未使用のPET用いて劣化の状態を評価した。"
食品新聞 11/22 10:02 配信
記事の元になった、「PETボトルリサイクル年次報告書」はこちらです。
- 「PETボトルリサイクル年次報告書 2020年度版」(PETボトルリサイクル推進協議会)
写真:この調査が行われた、2018年の台風21号の出水により庄内川に漂着した大量のペットボトル(2018/9/7撮影、一般社団法人clearwaterproject提供)
母集団とサンプル数
驚きました。
日本も含め、世界中の海岸には劣化して、衝撃も加わって割れたペットボトルはいくらでもあります。そもそも、統計学的に230本というサンプル数は母集団(流出したペットボトル=少なくとも毎年4,000万本)に対して少なすぎるでしょう。
どれくらいのサンプル数が必要なのかは、ちょっとした計算で求められます。たとえば、こちらのリンク先をご覧ください。
ただ、環境中でどれくらいのペットボトルがマイクロプラスチック化しているのか、誰にも分りません。母集団のうち、ある事象が起こる確率のことを母比率(たとえば、環境中に流出したペットボトルがマイクロプラスチックとなる確率)といいますが、その予測が困難な場合は50%とすると最も安全なサンプルサイズを求めることができます。
これをもとに、誤差5%、信頼区間95%の必要なサンプル数を求めると、385となります。余談ですが、アンケートなどの社会調査では、大体これくらいのサンプル数(回答)を集めることを目標に配布数を決めますね。
このペットボトルの調査の230本というサンプル数は、「ペットボトル(PET)がマイクロプラスチックになるような兆候は見られなかった」というのには、いささか少ないように思います。
河原の草むらに隠れていたペットボトルがそうそう簡単にマイクロプラスチック化しない、ということがわかっただけの話ですし、流れ出したペットボトルは今後、何百年も海を漂い続けるということを考えると、「現時点では、マイクロプラスチック化しているものはそれほど多くないと考えられる」という程度の話ではないでしょうか。
PET協の方、業界紙の記者さん、どちらがどういう解釈をされているのか記事だけでは分かりませんが、いずれにせよ今のPETボトルの使用と廃棄をめぐる状況が持続不可能なモデルであることは確かです。
ちなみに先ほどのPETボトルリサイクル推進協議会の年次報告書では、「年代分布では2011年度以降減少傾向が見られます。 これは、使用済みPETボトルの回収率の向上に関係する可能性もあり、注目されます。」とは述べられていますが、PETボトルがマイクロプラスチック化しないことが確かめられた、とは書かれていません。
四日市大学 環境情報学部の交流ブログでは、この調査を担当された千葉先生は、
庄内川・新川河口の漂着ペットボトルの調査について中日新聞に掲載されました(千葉)2018年12月15日
"2018年10月23日に無作為に拾った232本のペットボトルの中から製造年代を推定できた85本についての年代分布。2011年以降、減少傾向が見られる。ペットボトルの回収率の増加、本地域での清掃活動の効果、気象変動などの要因が推定されるが、現状は不明である。"
と記されています。回収率の向上で近年のペットボトルが少なくなったのかどうかすら、断定はできないといえるでしょう。
丈夫であるがゆえにいつまでも環境中に残り続けること、何よりマイクロプラスチック化することだけが海洋プラスチック汚染ではないことは自明です。
ペットボトルはどれくらいで劣化するのか?
気になったので海外の論文も調べてみました。
PETボトルの海洋での劣化については、2016年にエーゲ海で回収されたサンプルの分析がおそらく初出と思われます。
まあ、15年程度は劣化しませんよ、という結論が導き出されています。もちろん、サンプルとして用いられたペットボトルは、商品の製造時点を推計できる消費期限が確認できた「いい状態」のものが評価対象です。
"ペットボトルは水や土が入ると海底に沈む。紀伊水道の友ヶ島の近くの深くくぼんでいるところで底引網を引くとペットボトルしか網に入らないことがある。"
(関西広域連合琵琶湖・淀川流域対策に係る研究会 海ごみ発生源対策部会 報告書 参考資料 p.21)
そして、河岸や海岸に大量のペットボトルが打ち上げられていることによる景観破壊も、大きな経済的損失であることはいうまでもありません。
確かに日本におけるペットボトルの回収率は、世界的に見ても高いのは事実です(何の経済的なインセンティブが無いにも関わらず、9割のペットボトルが回収されているのは、多くの消費者の無償の努力の結果です)。しかし、回収率が高いにもかかわらず、河岸や海岸は大量のペットボトルが流れ着いています。根本的な対策は急務なのは言うまでもありません。
私のFacebookページで、この記事のことを取り上げたら、いつも河川清掃をされている方から、
"河川で葦などに引っ掛かっているのはほぼ動き無いので傷つきも少なく綺麗なモノが多いですね。増水し浮いたペットボトルが河口から出たてのモノも綺麗。でもその後は砂、岩、波で表面の状態が変わりますね。"
「好条件が重なった結果、数十年間経ってもマイクロプラスチック化しなかったものを調べたら、ペットボトルはマイクロプラスチック化しないことがわかりました」というのが正しい解釈ではないでしょうか(それは当たり前です・・・)。
もちろん、PETボトルリサイクル推進協議会などが掲げる、ペットボトルの100%リサイクルの実現には異を唱えるものではありませんし、むしろ一刻も早く実現させてほしいと思っています。ただ、その実現のためにも、石油に依存した今のペットボトルの大量生産、大量消費を見直さなければいけないことは言うまでもありません。
いろいろなことを感じた記事でした。
では、また!
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