なぜ、環境対策に否定的意見"も"多いのか
保津川の上流域、南丹市日吉町を流れる田原川
暑い日が続いています。子供のころは、気温が30度を超える日もそんなに多かったように思いませんが、今や最高気温が40度に迫ろうかという日も「当たり前」になってしまっています。
先日刊行された『環境情報科学』49巻2号の特集「気候変動・温暖化問題への関心―意識をより高め,行動へと移させるためには何が必要か?」に社会-経済システムの観点から環境問題における意識と行動の関係性について論じてほしいと依頼をいただき、亀岡・保津川での経験をもとに論じる機会をいただきました。
環境問題と「負担感」
特集の巻頭を飾られた国立環境研究所の江守正多先生が、論文をもとにYahoo!ニュースにわかりやすい解説記事を投稿されていました。
いろいろなところでしばしば紹介されていますが、2015年の世界市民会議(World Wide Views on Climate and Energy)の気候変動対策についての調査(World Wide Views, 2015)でも、世界平均では66%の人が「多くの場合、自分たちの生活の質を高めるもの」と回答したのに、日本ではそれはわずか17%にとどまり、逆に60%もの人が「生活の質を脅かすもの」であると答えていました。
出所:World Wide Views (2015) 最終アクセス2020年8月17日
実際、江守先生も指摘されていますが「Yahoo!ニュース」でも、若者が気候変動対策の必要性を訴えるような記事に対して、否定的なコメントが匿名ユーザーから投稿され、多くの「いいね」が付いているのはよく見かけますね。
環境保全は経済成長は両立しない?
日本ではまだまだ環境保全は経済成長と相反するもの、と考える人が多いのかもしれません。そして、これはプラスチックごみ問題でも同じです。
たとえば、最近、一人の高校生が日本を代表する菓子メーカーに、プラ包装を減らすように求めるオンライン署名を行ったところ、中には人格を否定するような中傷というべきコメントもたくさん寄せられ、それに対してメーカー2社が高校生の取り組みを支持するコメントを発表し、大きなニュースとなっていました。
この高校生の取り組みに対して、人格攻撃は論外としても、ネット上では「そんなことは前から分かってる」「メーカーは以前から努力している」といったコメントが多く見られました。
しかし、この署名の提出先となった会社をはじめいくつかの菓子メーカーの方と意見交換をする機会がこれまでにもありましたが、「どこから手をつけていいかわからない」「今すぐにでも包装を減らしたいが、消費者の反応が心配」と担当者のみなさんは異口同音におっしゃっていました。
以前から努力はもちろんされていますが、それでも今以上に踏み込むことは、個々の企業にとっては大きなリスクと感じられるのも仕方ないのもよくわかります。
署名を受け取った亀田製菓からはプラスチック製トレーと個包装をやめた商品も販売が始まりました。
社会システムの変化が重要
江守先生は、分煙を例に、個人の努力だけにゆだねるのではなく、社会のシステムの変化の必要性を繰り返し訴えてこられています。
気候変動対策のためのシステムの変化を起こすための筋道は,問題に本質的な関心を持った一部の人たち(多いほうがいいが,大多数である必要はない)がシステムに本質的な働きかけを行うことであり,大多数の人たちがわずかな関心を持って自分にできる環境配慮行動を人知れず行うことではない。
そして、江守先生は、
気候危機においてそのような「出口」に相当するのが,エネルギー,交通,都市,食料などのシステムの脱炭素化である。その必要性を理解し,それを心から望み,それに協力できることがあるならば惜しまないことが,人々に本当に必要とされる気候変動問題への「関心と行動」であると筆者は考える。
とも指摘されています。自治体の脱プラスチックの取り組みにおいても、単に特定の品目を規制するだけで終わらず、地域全体で廃棄物管理政策を根本的に見直して、地域の発展につなげていくことが大切です。
今、急速に広まっている循環経済(サーキューラー・エコノミー)へのシフトはまさにそうした取り組みですが、それを地域レベルにも落とし込んで、市民一人一人が幸福を実感できる仕組みを作り上げることが欠かせません。
一歩ずつしか社会は変われない
では、すべての問題を一気に解決してしまうような社会のシステムの変化はありうるのか?というと、残念ながらそんな「魔法の杖」はないでしょう。
最寄りのコンビニから10km以上離れた田原川(京都府南丹市)の河原にも、レジ袋はじめコンビニごみもたくさん落ちていました。
たとえば、レジ袋規制を行ったくらいでは、海洋プラスチックごみにも気候変動にも、目に見える変化は起こらないでしょう。
レジ袋は海のプラごみのごく一部だ、プラスチックの焼却で排出されるCO2は全体のごく一部だ、そんな批判はたくさんありますし、それを否定することはできません。
しかし、そのほんのごく一部の(しかも無くても困らない)使い捨てプラスチックのシンボルのような製品すら規制できずに、ほかの大多数の石油製品の消費を削減することなど夢のまた夢でしょう。言い換えると、そうしたところから一つずつ取り組み、人々の行動変容につなげていくしかないということです。
では、どのような取り組みが人々の行動を変えるのでしょうか?は、改めて書きたいと思います。
では、また!
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