レジ袋有料化、高い?安い?その2
連日の大雨で各地で大きな被害が出ていて心が痛みます。私の身近なところでも大きな被害が出ており、気候変動がいよいよ現実の脅威となってきたと感じます。
さて、今回の前回に引き続き、レジ袋有料化について考えてみたいと思います。みなさんの近くのお店では、レジ袋は何円になったでしょう?筆者の住む京都府亀岡市(ちなみに来年1月からはレジ袋は提供禁止、紙袋なども無償提供は禁止となります)では、スーパーや一部の個人商店ではすでに有料化には取り組んでいただいていましたが、もちろん7月1日からはすべてのお店で有償での提供になっています。
こちらのホームセンターはサイズや用途ごとに細かく価格を設定されています。
こちらの書店はバイオマス25%以上配合の「環境にやさしい素材」ということで、レジ袋の無料配布を継続されていました。でも、こうした代替レジ袋は、環境にやさしいどころか、最悪の選択になりうる、と国連環境計画(UNEP)が警告を出し、大きなニュースにもなりました。
ちなみにレジに並んで見ていた限りですが、半分以上のお客さんは無償であってもレジ袋を辞退されていました。「習慣」って大事ですね。
最近オープンしたこちらのカフェでは、紙袋のみの提供で、30円。ストローやコップも可能な限りプラスチック製品は避けてくださっています。
こちらのケーキ屋さんもプラスチック製レジ袋はすでに廃止、紙袋をサイズごとに有償で30円から60円まで。ちなみに進物用の焼菓子には、素敵な風呂敷も用意されていましたよ!
でも一体、プラスチック製レジ袋、お値段はいくらにすればいいのでしょう?前回に続いて、経済学を使って考えてみたいと思います。
前回は、「外部性」という考え方をもとに、下図ののように社会的に望ましいレジ袋の生産量(X*)を実現するためには、負の外部性を含む社会的限界費用(SMC)と需要曲線(D)との交点(E)から導かれる社会的に最適な価格P*を実現すればいいことを説明しました。
負の外部性と厚生損失
では、この社会的に最適な価格P*はいったいどうやったら実現できるのでしょう?
20世紀を代表するイギリスの経済学者、ジョン・メナード・ケインズの終生のライバルとも言われるアーサー・セシル・ピグー(もちろん彼もまた高名な経済学者です)は、税や補助金をうまく使うことで、理論的には外部性の問題を解決できることを示しました。のちにピグー税と呼ばれる考え方です。
もう一度、前回の記事の「負の外部性と厚生損失」の図を思い出してください。
生産者が把握できる原材料価格や人件費、光熱水費といった「目に見える費用」から導かれる私的限界費用(Private Marginal Cost: PMC)と消費者の需要曲線(D)が交わるところ(E')で、生産量(X')と価格(P')が決まりました。
しかし、レジ袋は散乱すると景観を悪化させ、海洋プラスチック汚染を引き起こし、焼却したとしても地球温暖化の原因である温室効果ガスを増やしてしまいます。こうした「目に見えない費用」を「負の外部性」ということは前回、紹介しました。
こうした「負の外部性」、すなわち社会全体で発生する費用から導かれる社会的限界費用(SMC)と需要曲線(D)の交わるところ(E)で、社会全体にとって望ましいレジ袋の生産量(X*)と社会的に望ましい価格(P*)が決まります。
でも、外部性は市場取引を通じないからそう呼ばれるわけで、放っておいてこの状態が実現するわけではありません。
ピグー税
そこでピグーは、政府が外部性を相殺するように課税(あるいは補助金)で調整する方法を考えました。
社会的に望ましい生産量(X*)で生じる、社会的に許容されうる汚染水準を「最適汚染水準」といいます(これまた一般的にはなじめない言葉ですが、あくまで数学的な表現です)。
この最適汚染水準における私的限界費用(PMC)と社会的限界費用(SMC)の乖離分に相当する金額を、財1単位あたりの税(TAX、たとえばレジ袋1枚あたりの税)として外部不経済の発生者である生産者に課税することで、社会的に最適な価格(P*)と最適な生産量(X*)を実現できる、というものです。
前回も書きましたが、今回の日本のレジ袋有料化は、とりあえず無償配布を禁止しようというものです。それまでも、もちろんレジ袋はお店にとってはお金を払って仕入れるもので、その代金は私たち消費者は知らないうちに商品価格に上乗せされています。
言い換えると、レジ袋が必要ない人までレジ袋代金を負担させられていたといえるでしょう。もちろん、それを禁止して、必要な人が必要なレジ袋代を支払うという「見える化」の効果は決して小さくなく、海外でも有料化により散乱するレジ袋が大幅に減少した、という例は報告されています(たとえばMarine Conservation Society 2016)。
ただ、今回紹介したピグー税のように、本当にレジ袋がもたらす被害額が適切に価格に反映(上乗せ)されているのか、というとそういうわけではありません。
とりあえず言えることは、レジ袋1枚数円、というのは安すぎる、ということでしょう。
ただ、ピグー税を導入しようと思っても課題もあります。
ピグー税をうまく設定できる前提条件として、まず規制当局である政府の「情報能力の完全性」があげられます。これは、政府が外部性の大きさを(貨幣価値の意味で)きちんと測定できる、ということです。しかし、それは極めて困難なことは言うまでもありません。
次に、「政策関与の非対称性」があります。これは、外部性を発生させる財にのみ税を課す(ないし補助金を交付)、というものです。しかし、レジ袋がもたらす環境問題は、意図せず風に飛ばされることもあるでしょう。レジ袋そのものがもつ様々なリスクもありますが、ポイ捨てという特定の人の行為によってもたらされるという面もあります。でも、こうした複合汚染は、そもそも原因の特定が困難です。
海洋プラスチック汚染をめぐる問題では、外部性の大きさが分からないだけではなく、社会の誰もが加害者であると同時に被害者でもあるため、原因と被害の特定も困難です。
つまり、レジ袋の価格をどれくらいにすればいいのか、は実はとっても難しい問題なのです。
次回は、海外の事例も参考に、レジ袋規制はどういう方策が考えられるのかを考えてみたいと思います。ではまた!
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