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2020年6月

2020年6月28日 (日)

レジ袋は海ごみのごく一部、というのは真実か?

7月1日からの全国一斉のレジ袋有料化を前に、議論が盛り上がっています。今まであまりに「使い捨てプラスチック」を何も考えずに使ってきた(国民1人当たりの使い捨てプラスチック消費量はアメリカについで世界2位!)ことを見直すいい機会になった、という意味ではレジ袋有料化の目的の1つはすでに達せられたといってもいいかもしれませんね。

さて、友人からこんなWebサイトを教えてもらいました。

脱プラ、脱ポリ、紙袋へ切り替えをご検討のお客様へ(清水化学工業株式会社)

ポリ袋は実はエコ商材なんです。

  1. ポリエチレンは理論上、発生するのは二酸化炭素と水、そして熱。ダイオキシンなどの有害物質は発生しない。
  2. 石油精製時に(ポリ)エチレンは必然的にできるので、ポリエチレンを使用する方が資源の無駄がなく、エコ。
  3. ポリ袋は薄いので、資源使用量が少量で済む。
  4. ポリ袋は見かけほどゴミ問題にはならない。目に見えるごみの1%未満、自治体のごみのわずか0.4%。
  5. 繰り返し使用のエコバッグより、都度使用ポリ袋は衛生的。
  6. ポリ袋はリユース率が高い。例)レジ袋として使用した後ゴミ袋として利用
  7. 都内ではサーマルリサイクルし、ごみ焼却燃料になり無駄とならない。
  8. ポリ袋は紙袋の70%のエネルギーで製造可能。
  9. ポリ袋の輸送に必要なトラックの量は、紙袋の7分の1。
  10. ポリ袋の製造に必要な水の量は、紙袋の25分の1。
  11. ポリ袋は紙袋に比べ、ごみにしてもかさばらない。
  12. 紙袋は再生できるものと再生できないものがある。ラミネート加工されているものや紐の種類によっては再生処理できない。
  13. 紙袋は間伐材とはいえ森林資源を利用。

出所)清水化学工業株式会社ウェブサイトより(2020/6/28参照)

 

海や川のごみ問題に取り組んできた立場からすると、頭がクラクラしそうなことが並んでいますが、レジ袋規制にたいするこうした批判や誤解は広くみられるものです。

 

本当にプラスチック製レジ袋は「エコ」なのか?

こうした主張の中で見落とされている大事な視点の一つが、「散乱ごみ」に対する視点です。こうした視点はペットボトルなどほかの使い捨てプラスチックに関する議論でも、長年見落とされてきたことでした。

レジ袋は、とても薄くて軽いものです。前回の記事でも述べましたが、手に持っていたレジ袋が風で飛ばされてしまった、という経験は誰しも一度や二度はあるのではないでしょうか?きちんとごみ箱に捨てられたり、ごみの集積場所に出されたはずのごみがネコやカラスによって散乱してしまっている光景もまだまだ見かけます。レジ袋をはじめ、プラスチック製フィルムは、簡単に飛散し、最後は海へと流れていきます。

では、海ごみの中で、レジ袋はいったいどれくらいを占めているのでしょう?レジ袋規制を批判する人がよく示す資料の一つに、下の表があります。

漂着ごみ(プラスチック類のみ)の種類別割合

分類 重量 容積 個数
飲料用ボトル 7.3% 12.7% 38.5%
その他プラボトル類 5.3% 6.5% 9.6%
容器類(調味料容器、トレイ、カップ等) 0.5% 0.5% 7.4%
ポリ袋 0.4% 0.3% 0.6%
カトラリー(ストロー、フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー) 0.5% 0.5% 2.7%
漁網、ロープ 41.8% 26.2% 10.4%
ブイ 10.7% 8.9% 11.9%
発泡スチロールブイ 4.1% 14.9% 3.2%
その他漁具 2.7% 2.6% 12.3%
その他プラスチック(ライター、注射器、発泡スチロール片等) 26.7% 26.9% 3.3%
  100% 100% 100%


出所)中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環戦略小委員会(第3回)資料 p.78
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf (2020/6/28参照)

たとえば、先のポリ袋メーカーのサイトでも

容積ベースではポリ袋は海洋プラごみのわずか0.3%なのに、現在象徴的に非難されています。原因のウエイトと対策のウエイトが乖離しています。

と書かれています。

確かに漁具の占めるウェイトが圧倒的に多く、その対策が不十分なことは言うまでもありません(そして海ごみ問題に携わってきたNGOや研究者、行政関係者は長年その対策も要望しています)。

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写真は長崎県対馬市のある海岸の様子です。地元のみなさんのご尽力で以前より大きくごみは減りましたが、それでも大量のごみが漂着し続けています。対馬は海流の影響もあり、特に韓国からのごみが多いことが特徴です。

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処分場に集められた発泡スチロール製ブイ。この黒い袋の中はすべて海岸に流れ着いた漁業用発泡スチロール製ブイです。以前は本土まで船で運ぶしかなく、処理に多額の費用がかかっていました。

漁具の対策が待ったなし、ということは誰も否定していません。

ですが、この表を読むときには、少し注意が必要です。

まず、この数値について資料には、

※1 調査対象は、海峡を中心に、黒潮、対馬海流、親潮の影響を受ける場所という観点で、過去の調査との連続性も考慮して、平成22~27年度の間に調査した5地点に平成28年度に新たに選定した5地点を追加した計10地点。(全国の状況を表すものではないことに留意。)

と書かれています。この10地点は、海外もふくむ大量のごみが漂着する場所として、地元からも早くから対策の要望が出ていたところです。東京湾や大阪湾などの人口密集地帯からのごみの流出はこの調査結果からは残念ながら把握することができません。ですので、資料でも「全国の状況を表すものではないことに留意。」と明記されています。

そしてまた、こんなことも書かれています。

※3  発泡スチロール片等、回収中に破損等により個数が変化してしまう人工物の破片は、個数の計測はしていない。

海岸清掃に参加された方はわかると思いますが、海岸に流れ着いたごみでもっとも多いのはすでに原形を留めていない「破片」です。各地の海岸には、まるで砂のように粉々になったプラスチックが堆積しています。しかし、あまりに細かすぎて、また大量にあるため、こうしたごみを回収し、数をすべて数えることは不可能です。この破片の中には、レジ袋も多く含まれています(地域差はかなりあります)。

 

破片化するレジ袋

では、日本でもっとも多くの支川をもつ淀川水系のごみのようすはどうなっているのでしょう?上流から順番に、破片ごみも含めて見ていきましょう。

まず、淀川の上流、海から約70km遡った、京都府亀岡市の保津川古浜の調査結果です。

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調査日 2018年11月11日 出所)川と海つながり共創プロジェクト(2018)をもとに筆者作成

亀岡盆地をゆったり流れている間は、レジ袋も原形を留めていて、「ポリ袋・シートの破片」に次いで多く見つかります。ちなみに「ポリ袋・シートの破片」も多くはレジ袋の破片です。

曲がりくねった急流が続く保津峡の中に入るとどんな風になるのでしょう?

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調査日 2018年12月16日 出所)筆者作成

先ほどの場所からわずか数キロ下っただけですが、保津峡の中では、レジ袋はそんなに見つかりません。大雨の際には、保津峡は大きく増水しますが、急流で揉まれて、木々に引っかかって、どんどん破れて細かくなるので原形を留めたレジ袋は大きく減ります。

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過去に私もこんな記事を書いていたのですね。

西友、レジ袋を全店舗で有料化へ(2012年6月 8日 (金))

わずか数キロ下った保津峡の中でも、レジ袋はもはや原形を留めていないことを紹介しています。

最後に、淀川が海にそそぐ河口ではどうなのでしょう?河口の海老江干潟の同じころの調査結果を紹介します。

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調査日2018年12月10日 出所)筆者作成

ここでは圧倒的にペットボトルが多くなっています。下の写真は、海老江干潟に群生するヨシの根元に絡まって破れたレジ袋です。河口部でもレジ袋は多くが破片化しており、実際の数を正確に把握することは困難です。

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いったん環境中に流出したレジ袋を「数える」ことは困難

さらに日本の河口域や沿岸部の特徴として、特に大都市やその周辺では自然海岸が少なく、コンクリートの垂直護岸が多いため、ごみがそもそも溜まりにくい、ということもあり、実態の把握はより困難です。ここに挙げた例もほんの一例に過ぎず、わからないことはまだまだ多いのは事実です。

しかし、海に流れ出たレジ袋はかなりやっかいな問題を引き起こします。レジ袋自体は、比重が1より軽いので理論的には水に浮くはずです。しかし実際には、表面には微生物が繁殖し、その分重くなって海底に沈みやすくなります。

前回ご紹介しましたが、大阪湾の底引き網漁船に同乗して調査をしていても、網を揚げるたびにたくさんのレジ袋が引っ掛かります。

河口部や漁船に同乗した調査でも、レジ袋などのシート状のプラスチックが沈んで酸素の供給が遮断され、海や川の底がヘドロ化していることをよく見ます。沿岸漁業にとっては、間違いなく脅威の一つとなっています。

そして日本近海も含めてクジラやウミガメなどがレジ袋を誤飲、誤食して死亡した多くの事例が報告されています。また、レジ袋由来と思われるマイクロプラスチックは海鳥から小魚、さらにはプランクトンまで多くの生き物の体内からも見つかっています

海に流れ出たレジ袋は、海底に沈むか、あるいは破片化してマイクロプラスチックになってしまっているため、もはや見つけることが不可能、ということであり、決して少ないわけではありません。また、海や川でレジ袋を回収しようと思っても、土や砂を掘り返したり、木々の枝に絡まったものを一つずつより分けたり、と、大変な困難を伴うことが多いことは、清掃ボランティアに参加した経験をお持ちの方はご存じだと思います(ですので、重量や容積だけではなく、個数ベース=回収に必要な努力量で数えることも重要です)。

容積ベースではポリ袋は海洋プラごみのわずか0.3%なのに、現在象徴的に非難されています。原因のウエイトと対策のウエイトが乖離しています。

と、冒頭にご紹介した企業のサイトで述べられていますが、決してそんなことはない、ということは言えるでしょう。

 

その他の疑問についても、順番に考えてみたいと思います。では、また!

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なぜ、レジ袋規制が必要なのか?

本当に久しぶりのブログ投稿です。最後に投稿したは2015年12月、消すのももったいないので、放ったらかしにしていたブログですが、最近、プラごみ問題について、講演の依頼をいただいたり、取材をいただくことが多いので備忘録も兼ねて再開することとしました。

さて、再開後最初の投稿は、レジ袋規制について。今年7月1日より全国一斉にレジ袋の有料化が始まります。「やっと」という声もあれば「そんなの意味ない」という声まで、ネット上にも実社会でも賛否両論渦巻いていますが、改めて、なぜレジ袋規制が必要なのか、考えてみたいと思います(今日の投稿はfacebookに書いた記事を編集したものです)

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なぜプラごみ全体の2%ほどしかないレジ袋なのか?という批判も確かにあります。

が、わずか2%しかないレジ袋をやめられなくて、なぜ一足飛びに残りの98%の削減に取り組めるのでしょう?レジ袋は、あってもなくても困らない使い捨てプラスチックの代表選手の一つです。どうしても必要なら、袋そのものを購入することは今でもこれからもできます。まあ、そもそもこれまでも「無料」で配られていたわけではなく、その費用は商品代金に上乗せされる形で、結局消費者が負担していただけですが。

2007年の京都市と東京都杉並区を皮切りに、すでに多くの自治体でスーパーを中心にレジ袋の有料化は実施されていて大きな混乱もなく、一定の成果を挙げていることも、国の取り組みを後押ししました。

 

レジ袋をポイ捨てする人が悪いのだから、モラルの問題だ!、使い捨てではなくごみ袋などに再利用している、という人もあります。

でも、持っていたレジ袋が風で飛ばされた経験は誰にでもあるのではないでしょうか?きちんと出したはずのごみが、ネコやカラスにつつかれて散乱している状況は珍しくありません。ポイ捨てばかりが原因ではありません。

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レジ袋は、一旦環境中に流出してしまうと生物が誤飲・誤食する可能性が極めて高いものです。薄いレジ袋は紫外線で劣化してマイクロプラスチックになりやすい一方、日光の届かない土中や水中ではいつまでも漂っています。つまり、レジ袋は多くのプラスチックごみの中でも、生態系におよぼす影響という点でもきわめてリスクの高いモノです。たとえごみ袋として再利用したとしても、石油で出来たレジ袋を燃やしてしまえばCO2となり、温暖化の原因にもなります。

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上の写真は大阪湾の底引き網漁で網に引っかかったレジ袋です。

網を揚げる度、必ずレジ袋が引っ掛かります。大阪湾の海底には300万枚ものレジ袋が沈んでいると推計されています(琵琶湖・淀川流域対策に係る研究会 海ごみ発生源対策部会 報告書、関西広域連合(2019))。海や川の底に沈んだレジ袋は、酸素の行き来を遮断し、底質の悪化、つまりヘドロ化も引き起こします。

漁師さんは「昔はいくらでも魚もエビも獲れたのに、今はごみの中から獲物を見つけてるようなもの」と嘆かれています。

衝撃…レジ袋・プラごみ、大阪湾に「900万枚」沈んでいる

関西広域連合は、大阪湾のプラスチックごみを調査した結果、レジ袋約300万枚、ビニール片約610万枚が海底に沈んでいるとの推計を11日、大阪市でのシンポジウムで明らかにした。また同日、小売りや飲料メーカーなどの業界団体と連絡会議を発足。プラごみ削減に向けた具体策を検討する。(産経新聞 2019/6/12

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提供)桂川河川レンジャー

上の写真は、2003年の台風23号による増水で木々に引っかかったレジ袋などのプラごみです。レジ袋の多くは雨が降ると町なかから川へと流れ出し、川から海へと下っていきますが、木々にレジ袋がたくさん引っ掛かり景観を大きく損ねます。観光地にとっては死活問題ですが、地域のみなさんのボランティア清掃に頼っているのが現状です。

生態系やヒトの健康への影響はまだまだ未解明な点も多いプラごみ問題ではありますが、漁業や観光など、地域にとって重要な産業にとってはすでに「現実の脅威」となっています。

 

レジ袋の原料のナフサは石油の精製過程で出てくる副産物を有効利用しているだけだ、という人もいまだにあります。

レジ袋の原料となるHDPE(高密度ポリエチレン)は、日本は今や輸入超。付加価値の低い汎用品の国内生産はどんどん減っています(下図)。たとえ副産物だとしても、わざわざ大量のエネルギーを使って海外から運ぶ(そして私たちが稼いだお金を流出させる)必要性もありません。世界がパリ協定を守るための脱石油社会の実現に向かう中で、漫然と石油由来のプラスチック製品を作り続けることは企業にとっても大きなリスクです。

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出所)財務省「貿易統計」各年度版より筆者作成

確かに今回の国の有料化は、不十分と言わざるを得ないものです。

だからと言って、「レジ袋の有料化はダメだ」というのではなく、ここからどう進んでいくのか、明確なロードマップを社会全体で示さないといけません。そしてどこの国でも、「その先」は地方が率先して取り組むことで道を切り開いています。


幸い、日本には優れた技術はあります。遅れているのは社会の仕組みづくりです。

今こそ、国にやってもらったらいい、お上に倣え、ではなく、地方からNew Normalの時代にふさわしい取り組みをどんどん広げていきたいですね。そんなことを思いながら、記者のみなさんとお話ししています。

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