大国のはざまで生きる、ブータンと言う国
今日は、久しぶりに本を一冊ご紹介。数あるブータン本の中から、「ブータン、これでいいのだ」。
首相フェローの公募に応募して、1年間ブータンで「国家公務員」をしていた御手洗瑞子さんの本。
GNH(国民総幸福)が国家目標であることが有名で、日本ではとかく「幸せの国」として知られているブータン。国王夫妻の来日も記憶に新しいところです。そんなブータン、もちろん魅力的な写真もいっぱい、私も行ってみたいな~と改めて思わされました。
が、それだけではないのがこの本の面白いところ。著者の御手洗さんは東大経済学部を卒業後、マッキンゼーで経営コンサルを務めていた、という経歴の持ち主。ふわっとした、軽やかな文章の中にも、鋭い視点がちりばめられていて、なるほど、と思わされることがたくさんあります。
たとえば、GNH(国民総幸福)は、とかくGNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)とは「違う」考え方のように(日本では)紹介されることが多いですが、決してそんなことはない。GNHの中にGNP/GDPが含まれているんだ、ということ。だから、国家プロジェクトとして水力発電所を建設し、インドに売電することで利益を得ていますが、ただしその発電所は環境に可能な限り負荷を与えないという明確なポリシーのもとで作られます。
そして興味深いのが大国である中国とインドに挟まれたブータンの「したたかさ」。ブータンは人口たったの70万人。日本だったら「中核市」、政令指定都市にも満たない人口です。首都のティンプーの人口は、これまたたったの10万人。よくある日本の地方都市くらい。
そんな中でブータンが生き残っていくためには、両大国とどう向き合うのか。隣の中国は、といえば、文字通り隣接するのはチベット自治区。チベット系住民が8割を占めるブータンは、あまり中国に接近しすぎると併合されかねない、という気持ちもあるのでしょう。そこでインドを最大の援助国として、支援を受けています。逆に電力はインドに売る。さらに、エリート官僚の多くはインドに留学。貿易もインド重視。と、そこまでならよくある話ですが、一方でインドを安い労働力の供給先として利用もしている面も。
最近の日本を見ていると、やたら感情的な中国との向き合い方を主張する人が増えているような気がします。だけど、残念ながらどう頑張ったって、中国のような人口・面積になれるわけがない。だったら、どううまく生きる道を探していくか。海の向こうのアメリカをうまく利用しつつ、中国も利用する。
「ムキ」になる外交ではなく、したたかな戦略、単なる「幸せの国」としてだけではない、日本のこれからにも示唆を与えてくれるのではないか、とさえ思えました。そして日本の地方都市のあり方にも。
おすすめの、1冊です。ぜひ、ご一読を。
「ブータン、これでいいのだ」 御手洗瑞子(著)
新潮社 (2012/2/29)
※著者の御手洗さんのインタビュー記事が日経ビジネスオンラインで公開されています。こちらもおすすめ。本でも紹介されていますが「日本→海老蔵事件、ブータン→アラブの春、の差」これは、考えさせられます。
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