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2012年2月16日 (木)

城下町に響く槌音~片井鉄工所を訪ねて

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しばしも止まずに槌打つ響、飛び散る火の花 はしる湯玉

ふいごの風さえ息をもつがず、仕事に精出す村の鍛冶屋

「村の鍛冶屋」という歌を覚えていますか?そんな鍛冶屋さんが、ここ亀岡にはまだ現役で活躍されています。

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丹波亀山城の城下町、亀岡市京町にその鍛冶屋さんはあります。「片井鉄工所」、農具など野道具や山道具を製作する鍛冶職人、「野鍛冶」。この片井鉄工所の主人、片井操さんも、その野鍛冶のひとりです。

伝統産業が多く残る京都府でも、現役の野鍛冶はお2人だけといいます。時代からすっかり忘れ去られたようにたたずんでいたこの鍛冶場、ひょんなことから最近ではたくさんの人が集まる賑やかな場所になりました。

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右が主人の片井操さん、今年81歳を迎えられます。ちなみに左は京都学園大学人間文化学部の手塚恵子先生。亀岡市には合併前の各村々に1~2軒ずつ、合計17軒ほどの鍛冶屋があったそうですが、今ではここ片井鉄工所を残すのみとなっています。

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私も参加している、保津川筏復活プロジェクト。この筏を組みたてるのに欠かせない道具の一つが「鐶(カン)」。かつてこの片井鉄工所では、その「鐶」も製造されていました。本格的な筏の復活に向けてどうしても欠かせないこの「鐶」、かつて作っていた鍛冶屋さんがまだ現役でいるよ、と教えていただいたのがきっかけとなり、2009年には60年ぶりに作っていただきました。

上の写真、左側が60年前まで保津川を流れていた筏で、実際に使われていた鐶。右が60年ぶりに製作された鐶。どちらも片井さん(もしかしたらお父様の)作品。

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そしてそれがきっかけとなって、学生さんたちが「鍛冶屋倶楽部」を結成。貴重な技術の記録と伝承に取り組まれています。

今日も撮影に、と朝早くから集まってこられました。

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「鉄は熱いうちに打て」といいいますが、まさにその通りのお仕事の様子。

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左手の前にあるコークスの中に、鉄をくべて熱するのですが、その時に飛び散る火花を見て、温度の加減を見るそうです。それを見誤ると、うまくいきません。

これ、簡単そうに見えて難しいんですよ。動画でもどうぞ。

 

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何十年にわたる仕事のようすを偲ばせる、煤けた天井。この場所に来ると、タイムスリップしたような錯覚に陥ります。不思議な空間。

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今日は、特別ゲストで、広島からお越しのお客さんも鍛冶屋体験。指導するのは平成の筏師こと、保津川下りの船頭さんの河原林洋さん。筏復活プロジェクトを中心になって進めて来られて、この素敵な鍛冶場を若者の集う賑やかな空間へと生まれ変わらせた張本人(笑)

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そして、飛び入り参加の亀岡子育てネットワークのスタッフさんも、鍛冶屋体験。むずかし~!と悪戦苦闘されていました。私?、結構、余裕でしたよ(笑)

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私の鍛冶屋体験、どうです、結構、サマになってません?ま、何度も何度も見せていただいてますからね。でもやっぱり、難しいです。

見学されていた方が「鍛冶屋さんは何年で一人前になれる世界なんですか?」とお聞きになったら、片井さん、「一人前と満足したら終わり」、と。かっこいい。

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片井さんの仕事場に貼ってあった、どこかのお坊さんの言葉。うん、確かにそうだ。

さて、ものづくりニッポンの衰退が叫ばれて久しい昨今です。だけど、本当に日本のモノづくりを支えてきたのは、こういう名もなき多くの職人さんたちではないでしょうか。こういう技術の延長に、最先端の技術もあります。

例えば、私が研究してきた岡山・津山のステンレス加工業。ルールは昔からのたたら製鉄にさかのぼる、立派な地場産業です。新幹線の先頭部分のカバー、あれも職人さんの叩き出しという手作業。

電機や自動車と言った産業の空洞化、それは実はたいした問題じゃないと思います。向上が閉鎖されてしまえば、一時的には大きなショックが地方にもあるでしょう。だけど、モジュール化した製造業は、どこででもできます。それよりも、足元のこうした技術が途絶えてしまうことが、本当の意味での地域の空洞化を招くのではないか、と思います。そしてそれは文化の途絶でもあるのではないでしょうか。

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