京都新聞 『私論公論』
漂着ごみ対策
社会的な仕組みの確立を
大阪商業大学経済学部准教授 原田禎夫
近年、日本各地の海岸が大量のごみで埋め尽くされ、深刻な問題となっている。景観の悪化だけではなく、生態系へも大きな影響を及ぼす「漂流・漂着ごみ」問題は、新たな地球環境問題として世界的にも関心が高まりつつある。
国内においても、いわゆる海岸漂着物処理推進法が2009年に制定されるなど、徐々に対策が進みつつあるが、残念ながら目立った成果は挙げられていない。
各地の海岸に漂着するごみの多くが、実は国内由来のものであるということはほとんど知られていない。環境省が07年から08年にかけて全国の海岸で実施した調査では、漂着したペットボトルのほとんどが日本製のものであり、ごみの総量のうち大半を生活ごみが占めていた。
また、筆者が京都の保津川(桂川)流域で定期的に実施している調査でも、ペットボトルやビニール類、食品トレイなど、実に8割をプラスチック系のごみが占めている。
移動性が高く、発生地と漂着地が異なるなど、複雑な原因体系をもつ漂流・漂着ごみ問題の解決には「回収・処理」と「発生抑制」を車の両輪のように進めなければならない。
このうち「回収・処理」については、出来るだけ発生地に近いところで実施することが重要である。なぜなら、プラスチック系ごみは波や紫外線により劣化し、極めて微細なものとなり、回収が不可能になるからである。
しかし、拾うだけでは問題は解決せず、「発生抑制」が重要な意味を持つ。漂流・漂着ごみの発生抑制には、そもそも工業製品の一定割合は環境中に流出してしまう、という前提に立った社会的な仕組みづくりが不可欠である。
たとえば、日本のペットボトルの回収率は80%近くにのぼる。それでも、大量のペットボトルが河原や海岸を埋め尽くしているのはなぜだろうか。
現行の国内のペットボトルの回収制度は、消費者や小売店の善意に大きく依存したものであり、他の先進国のようなデポジット(預託金)制度は導入されていな い。製品価格に容器代を上乗せして販売し、回収時に返金するデポジット制度は、ポイ捨ての大きな抑止力となるだけではなく、制度設計を工夫することで諸外国のように回収費用を賄うことも可能である。
また、漂流・漂着ごみの多くを占めるレジ袋については、有料化が大きな削減効果を持つ。ある大手スーパーの報告書によれば、有料化が義務化されていない京都府下でのマイバッグ持参率は30%台にとどまる一方、有料化が制度化されている北陸や中部地方の各県では軒並み80%台後半である。また全国では90%を超える地域も珍しくない。
個人のモラルに訴えるだけでは難しい漂流・漂着ごみ問題の解決には、経済的なインセンティブ(誘因)を活用した制度設計が不可欠である。また、経済的な手法を導入することで、事後的な対策よりも低費用で問題を解決できることが多くの研究でも示されている。
今年8月には、内陸部で初開催となる「海ごみサミット」が京都府亀岡市で開催される。この会議は、国や自治体、国内外のNGO・NPO、事業者など関係者が一堂に会して漂流・漂着ごみ問題について討議するものであり、今年で10回目を迎える。実効性のある漂流・漂着ごみ対策を実現するための活発な議論が交わされることを期待している。
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