天竜川の川下り事故と保津川での取り組みについて
昨夕のニュースでは、天竜川での痛ましい事故を受けて、保津川下りでの安全対策も数多く取り上げられました。そんな中、保津川下りはライフジャケット着用義務がなくて大丈夫?という声を少なからずお聞きしました。
まず、保津川下りでの死亡事故は、明治以降でこれまでにたった1回だけ、それも増水による「川止め」であったにも関わらず、アメリカ軍の音楽隊が命令により川下りを強行した時(明治32年)に起こっただけであることも、お伝えしておきたいと思います。
(ツイッターではGHQと書きましたが、間違いです。お詫びして訂正します)
保津川では、以前から安全航行について全事業者による合同会議を私も理事を務めるプロジェクト保津川などの呼びかけで、毎年、観光シーズンの前に開いてきました。危険性を報じるならば、これまでの取り組みも同様に報じていただければと思います。
「京都・保津川のほとりから」(プロジェクト保津川ブログ)より、安全対策関連の記事のまとめ
- 保津川下りとラフティングの合同会議が開催されました!(2009年7月 3日 (金))
- 保津川遊船水難救助訓練に参加して・・・(2009年7月15日 (水))
- 保津川の安全対策合同会議が新聞で紹介されました!(2010年8月16日 (月))
国土交通省が、川下り船に救命胴衣着用を義務付け、ということが昨日来報じられています。今回のような痛ましい事故が起こればそういう対応もやむをえないのかもしれませんが、事故が起こったからとはいえ、全てに強制する必要があるのか、そうした対応にいささか疑問を感じないわけでもありません。
安全第一はいうまでもありませんが、たとえば海の船は大きな船まで全員が救命胴衣を着用するのか、飛行機の墜落事故が起きれば全員にパラシュートでもつけさせるのか。現実的にはそういうことはないと思います。「川下り」=「スリル」=「危険」という安直な図式であまりに考えすぎではないでしょうか。
また、現場の船頭さんからは、現行のライフジャケットは、そこれそ熱中症になりそうなほど通気性が悪く、これを1時間半も着用することがお客さんに敬遠されているのが実態、という話をお聞きしました。今では通気性も含めた性能も、装着感もすぐれたライフジャケットはたくさんあります。でも、一部の古いタイプのライフジャケットしか「救命胴衣」としての認可が下りていない、という現状もあるそうです。義務付けるなら、そのあたりの改善も同時にしないと、と思います。
同じ川下りでも、ラフティングやボートには何の基準もない、というのもまたおかしいですし。(もちろん、現場では十分な対策をとられていますが)
今回の事故で「ライフジャケットを着たら(着せたら)安心」と、それで解決したとなってしまっては何の教訓も得られないでしょう。
もちろん、必要であればライフジャケットの着用も大事ですが、それを義務付ける以前に、もっと地道で大切なことがあるのでは、ということです。
そもそも自然の中での遊びは、多かれ少なかれ、リスクを伴うのは当然ことです。また、川ははみんなのもの、自由に遊べる場所であり、誰かから何かを強制されるものではない筈。だからこそ自らルールを作っていくことが大事と、改めて感じています。
それから、これはもう地元の人間の身びいきかもしれませんが、やはり保津川下りをただの「遊覧船」「観光川下り」と一括りに報じられるのはいささか違和感を感じます。
全国の河川旅客船協会に加盟している川下りの中で、戦前から続いているのは保津川と球磨川だけ。そして球磨川も明治末期にはじまった川下りです。それに対して保津川下りは405年間、ただの1度も途切れることなく脈々と受け継がれてきた伝統産業です。「遊覧船」といわれると、非常に軽い感じを受けてしまいます。
あまり知られていませんが、他の川下りは、船頭さんが「会社」に雇われる形態です。保津川は、日本の川下りでは唯一の「企業組合」として運営されています。つまりお金を自ら出して船頭株を持って船頭になる、という昔ながらの「株仲間」の組織です。
1人前の船頭さんになるには10年以上とも言われる、長い修行を積んでこられています。保津川下りは、まさに保津川の伝統文化であり、伝統産業で、そこにはただの「遊覧船」とは違う、船頭さんたちのプライドと確かな技術があります。
そして、そういう川下りだからこそ、世界のVIPもお越しになっています。歴代の英国王室や、最近では2年前にオランダの首相もお越しになりました。そういう中で、死亡事故を起こすことなく綿々と川下りが受け継がれてきた、という背景もきちんと押さえて報じてほしいと思います。
もちろん、技術に過信は禁物ですが・・・。
事故が起こるたびに、誰かに責任を押し付ける、そしてそれでおしまい。明石の花火の事故もそうでした。そしてそもそも自然の中で遊ぶ、ということは、多かれ少なかれリスクを負うものです。また、本来そのリスクは自分で判断すべきもの。
そういう大前提が、どこか崩れているような気がしてなりません。もちろん「乗り物」である以上は120%の安全が求められるのはいうまでもありません。安全への備えはいうまでもありませんし、乗客への注意も必要と思います。そこは改善すべき点もあると私も思います。ただ、国が一律に義務付け、というのはどうなんでしょう。今は緊急ということかもしれませんが、現場のみなさんの声もしっかりと踏まえた対応をお願いしたいと思います。
どうか、今回の事故の教訓が「ライフジャケットの着用義務化」だけに終わらずに、しっかりとした原因の究明や、実効性のある対策の立案につながることを期待しています。
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コメント
お早うございます。
初めまして
先日、川下りに行ってきました。
何処のって書くと営業妨害になるので控えさせていただきます。
そこの川下りは船頭さんが川底を竿を使用して舵をとっているのだと思います。
その竿がふとしたスキに川底に取られ竿を離した時に事件が起きました。
その竿がしなりお客さんの方に飛んで来ました。
そうです。
その竿、あっと言う間に飛んで来て僕の顔面を強打しました。
暫く僕はうずくまりました。
お客さん大丈夫ですか?と数度。
傷はほぼ付かなかった感じで清水でタオルを冷やしてくれて応急処置も良かったです。
病院に行って下さいと無礼なくらい言われました。
ここまでの現場の対応はとても良かったです。
まだ痛みがあります。
専務さんも出てきて医療費も払いますとの事です。
お話を聞くかぎりこのような事が時々あるそうです。
その話を聞いて『えっ、安全対策しないの?』ととても思いました。
背後のお婆ちゃんに当たっていたらどうなっていたんだろうと思います。
地元のお医者さんに行って聞いたところ目の動きに異常が出る場合があるとの事でした。
専務さんのご対応もきわめて事務的でした。
川下りに行く際、僕と同じ目に合わないよう気をつけていただきたく書き込みをさせていただきました。
宜しくお願い致します。
投稿: 神が付く名前 | 2015年7月22日 (水) 05時00分