先日、気になるニュース記事がありました。治部れんげさんによるレポートです。
城崎温泉や日本一のカバン産地として、またコウノトリの野生復帰でも有名な、兵庫県北部の町、豊岡市の新しいの挑戦の記事です。
以前、私が代表をしているNPOで開催したシンポジウムにも豊岡市長の中貝宗治さんにお越しいただき、「コウノトリとの約束」だから、とコウノトリの野生復帰、そしてコウノトリ"も"住めるまちづくりなど素敵なお話を伺いました。
その中貝市長が、危機感を持った数字。それは「若者回復率」でした。若者回復率とは「10歳代の転出超過数に対して20歳代の転入超過者数が占める割合」と定義されます。簡単に言うと、進学で地元を離れた子供たちが就職や結婚を機会に、故郷の町に帰ってきてくれたかどうか、を表す指標です。
ちなみに、人口の増減は、出生数と死亡数の差による自然増(減)と、人口移動すなわち流入数と流出数の差による社会増(減)とに分けて考えられますが、このうち若者回復率で見ているのは「社会増(減)」、簡単に言えば地域間の「移民」の状況を見ているわけです。
※近年は少子高齢化社会を反映して、多くの地域で自然減が社会増を上回る傾向にあります。
日本中の多くの地方都市では、10代は大学や専門学校への進学のため故郷を離れ都市部に移り住むことから「転出超過」となります。20代になると就職や結婚をきっかけに一定割合の人は地元に戻ってきますが、人口増につなげるのはなかなか難しいことです。
経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供している地域経済分析システム(RESAS:リーサス)を使って、豊岡市の年齢階級ごとの人口の増減を見てましょう。
出所:RESASを用いて作成
確かに、10代で大きく減少し、その後20台で半分弱が戻ってきていることがわかります。しかし、もう少し詳しく見てみると、そこにはある大きな「違い」がありました。2010年と2015年の国勢調査のデータをもとに「若者回復率」を計算してみると、こんな結果になります。
|
男 |
女 |
合計 |
10代人口の社会増(減) |
-1,071 |
-1,062 |
-2,133 |
20代人口の社会増(減) |
561 |
282 |
842 |
若者回復率 |
52.4% |
26.5% |
39.5% |
出所:国政調査をもとに筆者作成
男性は、半分強が豊岡に帰ってきているけれど、女性は4人に1人しか帰ってきていない。しかも、男性の回復率は緩やかに上昇しているけれど、女性はずっと下落傾向にあるそうです。
中貝市長は、こんなことをおっしゃっています。
「とても恐ろしいことが起きています」と中貝市長は言う。そして、こうなる理由は想像できる、とも言うのである。
「地元で親たちは、長男には『帰ってこい』と言っています。一方で女の子には『どうせお嫁に行くから、好きなようにしていい』と言っている。その結果、女性が豊岡に戻ってこなくなっている。あらためて見ると、市役所にも市内企業にも働く女性が少なくて、リーダー職につく女性はほぼいない。このジェンダーギャップを放置すれば社会・経済的な損失は、とてつもなく大きい」
出典:人口8万人の市長が「ジェンダーギャップ」に目覚めた理由~兵庫県豊岡市の持続可能なまちづくり(前編)(最終アクセス:2020年7月30日)
亀岡市とほぼ同じ人口規模の豊岡市、京阪神との距離は違いますが、自然が豊かなことも、1次産業が盛んでおいしい特産品がたくさんあることも、よく似ています。むしろ、豊岡市のほうが、城崎温泉やコウノトリなど、悔しいけれど全国的な知名度は高い。
今まで日本の多くの自治体は、「出生率」の回復を人口政策の柱の一つに据えて、子育て支援の充実(保育所の増設など)や働く場所の確保(多くは工場や大型商業施設の誘致)を進めてきました。ところが、現実に起こっていることは、出生率が全国最低の東京都に、人口が集中し続けているということです。
若い世代やファミリー層が、東京に流入し続けているのです。また、こんなニュースもあります。
東京圏への転入者は、進学や就職により、20~24歳、25~29歳、15~19歳の順で多くなっています。また、2019年の東京圏への転入超過者数を男女別でみると、男性よりも女性のほうが1万7,000人近く多くなっています。
こうした状況について、政府では、
「女性特有の理由として「帰りたいのに、地元の価値観(女性への偏見等)になじめない」という意見が聞かれた。」
出所:「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業報告書」(最終アクセス:2020年7月30日)
と指摘しています。また、現在策定中の「第5次男女共同参画基本計画」の策定にあたっては、さらに突っ込んだ指摘がなされています。
〇 近年、若い女性の大都市圏への転入超過が増大しており、また、地方の都市部に周辺の地域から人口が流入する状況もみられる。安心して暮らすために十分な所得とやりがいが得られる仕事ができ、家族を形成しやすく、暮らしやすい、女性にとって魅力的な地域を作っていかなければ、持続可能な地域社会の発展は望めない。
〇 地方出身の若い女性が東京で暮らし始めた目的や理由として、進学や就職だけでなく、「地元や親元を離れたかったから」といったことが挙げられている。その背景として、固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が根強く存在しており女性の居場所と出番を奪っていることや、地方の企業経営者等の理解が足りず女性にとってやりがいが感じられず働きにくい環境であること、女性も男性も問題意識を持ちながらも具体的な行動変容に至っていないことなどが考えられる。
出所:「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)【案】」(最終アクセス:2020年7月30日)
さて、では私の住む京都府亀岡市の若者回復率はどうなっているのだろう?と気になってこちらも調べてみました。
まずは豊岡市と同じようにRESASで、全体的な増減を見てみましょう。
出所:RESASを用いて作成
豊岡市と少し動きが違いますね。流出のピークは10代ではなく、20代後半です。京都市のすぐ隣に位置していて、自宅から京阪神の大学に通いやすい(しかも京都市には大学はとても多い)、大阪にも通勤圏内である、ということもあって、就職してしばらく経ってから(お金が貯まってから?)市外へ引っ越す人が多いように見えます。
それから、近年になって、若者の人口流出が加速しているようにも見えます。では、豊岡市と同じように、若者回復率を国勢調査のデータから算出してみましょう。
|
男 |
女 |
合計 |
10代人口の社会増(減) |
-336 |
-332 |
-659 |
20代人口の社会増(減) |
-1,028 |
-609 |
-1,637 |
若者回復率 |
-305.6% |
-188.9% |
-248.5% |
出所:国政調査をもとに筆者作成
え??
男 -305.6%、
女 -188.9%!!
マヂデスカ・・・?
目を疑うような数字が出てきました・・・。
ジェンダー・ギャップどころか、若者全体から見放されている、といっても言ったほうがいいかもしれません。
豊岡市の状況が「まだマシ」と思えてくる悲惨な数字です。ちなみに2010年と2015年の国勢調査の結果をもとに、年代別に社会増(減)を見てみると、
年代別社会増(減) |
男 |
女 |
0~4歳→5~9歳 |
102 |
73 |
5~9歳→10~14歳 |
-6 |
4 |
10~14歳→15~19歳 |
-19 |
26 |
15~19歳→20~24歳 |
-317 |
-348 |
20~24歳→25~29歳 |
-857 |
-490 |
25~29歳→30~34歳 |
-171 |
-119 |
30~34歳→35~39歳 |
-30 |
-39 |
35~39歳→40~44歳 |
-10 |
-11 |
40~44歳→45~49歳 |
-3 |
-33 |
45~49歳→50~54歳 |
-32 |
-55 |
50~54歳→55~59歳 |
-25 |
-51 |
55~59歳→60~64歳 |
-27 |
-38 |
60~64歳→65~69歳 |
5 |
-8 |
65~69歳→70~74歳 |
8 |
-16 |
70~74歳→75~79歳 |
-15 |
16 |
75~79歳→80~84歳 |
42 |
8 |
80~84歳→85~89歳 |
-23 |
27 |
85歳~→90歳~ |
-11 |
0 |
出所:国政調査をもとに筆者作成
男性は定年退職のころで少しプラスですが、あとはもうほとんどマイナスばっかり!
豊岡市など他の地域と違い、男性の若者回復率が(マイナス方向に)極端に大きいのは、市内に立地する京都学園大学(現京都先端科学大学)の学生さんの流出入により、その効果が増幅していることは考えられます(私もかつて非常勤講師をしていましたが、男子学生の比率が高い大学でした)。
そうだとしても、ちょっとヤバくないですか、この数字。
ちなみに、どんな地域との間で人は動いているのでしょう。もう一度、RESASで調べてみると、
出所:RESASを用いて作成
出所:RESASを用いて作成
男女とも、京都市にどんどん吸い取られ、大阪府や滋賀県に出ていく人も多い一方、南丹市や京丹波町から引っ越してくる人が少しある、という状況です。
ここで注意しないといけないのは、亀岡市が人口を「吸い取ってる」相手の南丹市や京丹波町も、人口が加速度的に減少している地域である、ということです。また、近年は外国人技能実習生のみなさんも少なくありません。
つまり、いつまでも安定的に人口を周辺地域から「補充」することは望めない、という状況にあるといえるでしょう。
オッサン中心社会から脱却しないことには、ほんと、未来がない(もう私も十分オッサンですけれど)。
新型コロナウイルスの世界的な拡大は、「田園回帰」ともいうべき流れも生み出しています。SDGsの取り組みも、いよいよ本格化しています。第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)【案】では、次のようにもふれています。
〇地域経済を支えている中小企業・小規模事業者は、生産年齢人口が減少していく中で人手不足に直面している。地域における男女共同参画・女性活躍の推進は、優秀な人材の確保・定着につながり、地域経済の持続的な発展にとって不可欠である。
〇また、就農人口が減少する中で、都市部への女性の流出が続いているとともに、基幹的農業従事者に占める女性の割合は低下傾向にある。これまでも女性が新たな発想と取組で農林水産業分野の活性化に取り組んできた。農林水産業の持続性を確保するためには、女性の活躍に向けた支援が欠かせない。
〇持続可能な社会という観点からは、気候変動問題等の自然環境や社会環境・生活環境に係る問題が世界共通の課題となっているところ、環境問題の取組に当たって男女共同参画の視点が反映されることが重要である。
もう一つ、面白いデータを。2015年から2050年にかけて、亀岡市内のどの地域の人口が大きく増加/減少するのか、1km四方ごとに示す地図をRESASで作ってみました(参考までに右側の赤いエリアは、人口を引き寄せてる京都市中心部です)。
出所:RESASを用いて作成
まあ、全域で減るのですが(涙)
今、人口が急増しているエリアの減り方が特に酷いですね。京都市のすぐ隣、という超がつくほどの優良農地や里山を開発して造成してきたニュータウンが壊滅状態です。
一方、かつて「株式会社神戸市」と呼ばれて、「山、海へ行く」とも言われた大規模な開発を行ってきた神戸市が、新しい取り組みを始めます。
神戸のような都市がこういう取り組みを本気でスタートしたら、郊外のベッドタウンの(未だに開発志向の)自治体は、ヤバいだろうなぁ、とも思ったりもします。
幸い、亀岡市は、まだまだ豊かな自然も残されています。全国に先駆けてプラスチックごみゼロを目指す取り組みを進めてきて、「SDGs未来都市」、そして「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれました。こうした取り組みを進めるためにも、男女の別なく、また年齢の別なく、いろんな人の知恵と力が必要なのは言うまでもありません。
若い人が出て行って、なぜ帰って来ないのか、まずはそこを調べてみなければ、と思った衝撃的な数字でした。
では、また!
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