2021年5月11日 (火)

エノキタケ栽培発祥の地は亀岡市篠町!

またまた前回の更新からずいぶんと間が空いてしまいました😅

今回は、おなじみのエノキタケのお話しです。
今日、とっても面白い話を院生時代からの友人でもあるキノコ博士の齋藤暖生齋藤暖生くん(東京大学富士癒しの森研究所長)から教えてもらいました。

スーパーの店頭でもおなじみのエノキタケ、現代ではおがくずを使った菌床栽培が主流ですが、その発祥の地は、実は京都府亀岡市篠町!調べてみると、その昔「かめ茸」とも呼ばれていたそうです。

柿の木を使った原木栽培がおこなわれていたエノキタケですが(隣の西京区大枝は今でも柿の一大産地ですからこの辺りでもそれなりの収穫があったとしても不思議ではありません)、原木が足りなくなって京都の森本商店とともに菌床栽培の技術を確立したそうです。

萩本(2015)によれば、大阪朝日新聞1928(昭和3)年5月30日付の記事の中で、柿の木がどんどん伐採される現状を憂慮して亀岡を視察した森本農園園主森本彦三郎氏は、同行した松下京都営林署長から「生茸二、三本を貰ひうけ寒天培養によつて胞子を養成し殺菌した壜中に鋸屑を入れてその胞子を移植し約半年にわたる苦心の結果、移植後約一ヶ月間に一塊に数百のなめ茸を叢生せしめる人工栽培法に成功した」そうです。

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森本氏が亀岡町篠村のエノキタケ栽培地を視察した記事[大阪朝日新聞の1927(昭和2)年12月14日の記事と推定]
出所:萩本宏(2015)「森本彦三郎が菌床栽培法と原木栽培用菌種の発明に至った経緯の考察」(千葉菌類談話会通信31号、pp.42-62)

篠村史によると、当時の篠村では、寒天が寒谷(さぶたに)で製造されていましたが、それも役に立ったのかもしれませんね。

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当時は「かめ茸」と呼ばれていた菌床栽培のエノキタケ、貴重な現金収入だったようで、昭和2年当時で5,000~6,000円の売り上げがあったようです。篠村史によるとその当時の農家の平均所得は327円71銭(大恐慌後の昭和9年には128円47銭まで下落)、昭和3年の村の歳入総額が71,632円(うち税収26,971円)ですから、かなりの規模だったことがうかがえます。

篠村史によると

篠村の特産としてかなり古くから知られているものに、なめたけ、別名榎茸(えのきたけ)というきのこの一種がある。渋柿や榎などに栽培するもので、一時は大阪に出荷して、販売額も3,000円内外に達したが、昭和4・5年ころには雑菌がはびこって栽培不能になっていた。(篠村史 p.479)

と記されています。

その後、大恐慌の困窮を救うことになるのは、丹波栗の海外への輸出という挑戦でした。当時の新聞では「米価下落に泣く村を救った栗栽培」として「農村の自力更生に雄々しい歩を運び出した」(朝日新聞 昭和7年7月24日)と紹介されています。

そして、さらに輸出を伸ばすために村の人びとは、すべて村費で馬堀駅を設置し、栗を始め農産物の出荷がスムーズに行えるようにした、ともあります。

すごいな、ふるさとの先人!コロナ禍の今こそ、100年前の地域の先人がどうやって世界恐慌を乗り越えたのか、学びなおしたいと思いました。

ちなみに篠村から始まったエノキタケ栽培が現代までどんな道をたどったのかについては先日出版された「野生性と人類の論理 ポスト・ドメスティケーションを捉える4つの思考」(東大出版会)に収められている「つくられた野生――エノキタケ栽培がたどった道」(齋藤暖生)に詳しく紹介されていますので、ぜひご覧ください。

野生性と人類の論理 ポスト・ドメスティケーションを捉える4つの思考
卯田 宗平 編
http://www.utp.or.jp/book/b559379.html


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2020年11月23日 (月)

ペットボトルはマイクロプラスチック化しない?

ペットボトルは頑丈?

ニュースを読んでいると、ある記事が目に留まりました。

「ペットボトルはマイクロプラスチックにならない」 河川に長年放置された230本を分析して確認 PETボトルリサイクル推進協議会

"一般的に海に流出したPETは、長きにわたり紫外線や波の力を受けることで壊され小片化・微細化すると言われているが、同協議会が河川に約20年間放置されたPETなどの劣化状態を分析したところ若干の劣化とクラック(亀裂・ひび割れ)が認められた程度であったことが判明した。"

"「PETは非常に紫外線に強い樹脂なので業界人の間ではマイクロプラスチックにならないと感覚的にわかっていたが、18年の台風によって愛知県の庄内川と新川の中堤防で20年以上前に製造されたPETが多くサンプリングできたことで確認できた」と秋野卓也専務理事は振り返る。"

"同協議会は、これらのPETを無作為に460本回収し、PETに刻印されているメーカーの協力を得て230本の製造年(販売年)を特定。次に、特定できたPETと同形状で現在も販売している未使用のPET用いて劣化の状態を評価した。"

食品新聞 11/22 10:02 配信

記事の元になった、「PETボトルリサイクル年次報告書」はこちらです。

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写真:この調査が行われた、2018年の台風21号の出水により庄内川に漂着した大量のペットボトル(2018/9/7撮影、一般社団法人clearwaterproject提供)

 

母集団とサンプル数

驚きました。

日本も含め、世界中の海岸には劣化して、衝撃も加わって割れたペットボトルはいくらでもあります。そもそも、統計学的に230本というサンプル数は母集団(流出したペットボトル=少なくとも毎年4,000万本)に対して少なすぎるでしょう。

どれくらいのサンプル数が必要なのかは、ちょっとした計算で求められます。たとえば、こちらのリンク先をご覧ください。

ただ、環境中でどれくらいのペットボトルがマイクロプラスチック化しているのか、誰にも分りません。母集団のうち、ある事象が起こる確率のことを母比率(たとえば、環境中に流出したペットボトルがマイクロプラスチックとなる確率)といいますが、その予測が困難な場合は50%とすると最も安全なサンプルサイズを求めることができます。

これをもとに、誤差5%、信頼区間95%の必要なサンプル数を求めると、385となります。余談ですが、アンケートなどの社会調査では、大体これくらいのサンプル数(回答)を集めることを目標に配布数を決めますね。

このペットボトルの調査の230本というサンプル数は、「ペットボトル(PET)がマイクロプラスチックになるような兆候は見られなかった」というのには、いささか少ないように思います。

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河原の草むらに隠れていたペットボトルがそうそう簡単にマイクロプラスチック化しない、ということがわかっただけの話ですし、流れ出したペットボトルは今後、何百年も海を漂い続けるということを考えると、「現時点では、マイクロプラスチック化しているものはそれほど多くないと考えられる」という程度の話ではないでしょうか。

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PET協の方、業界紙の記者さん、どちらがどういう解釈をされているのか記事だけでは分かりませんが、いずれにせよ今のPETボトルの使用と廃棄をめぐる状況が持続不可能なモデルであることは確かです。

ちなみに先ほどのPETボトルリサイクル推進協議会の年次報告書では、「年代分布では2011年度以降減少傾向が見られます。 これは、使用済みPETボトルの回収率の向上に関係する可能性もあり、注目されます。」とは述べられていますが、PETボトルがマイクロプラスチック化しないことが確かめられた、とは書かれていません。

四日市大学 環境情報学部の交流ブログでは、この調査を担当された千葉先生は、

庄内川・新川河口の漂着ペットボトルの調査について中日新聞に掲載されました(千葉)2018年12月15日

"2018年10月23日に無作為に拾った232本のペットボトルの中から製造年代を推定できた85本についての年代分布。2011年以降、減少傾向が見られる。ペットボトルの回収率の増加、本地域での清掃活動の効果、気象変動などの要因が推定されるが、現状は不明である。"

と記されています。回収率の向上で近年のペットボトルが少なくなったのかどうかすら、断定はできないといえるでしょう。

丈夫であるがゆえにいつまでも環境中に残り続けること、何よりマイクロプラスチック化することだけが海洋プラスチック汚染ではないことは自明です。

 

ペットボトルはどれくらいで劣化するのか?

気になったので海外の論文も調べてみました。

PETボトルの海洋での劣化については、2016年にエーゲ海で回収されたサンプルの分析がおそらく初出と思われます。

まあ、15年程度は劣化しませんよ、という結論が導き出されています。もちろん、サンプルとして用いられたペットボトルは、商品の製造時点を推計できる消費期限が確認できた「いい状態」のものが評価対象です。

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また、たとえマイクロプラスチック化しなかったとしても、今でも海底にも大量のペットボトルが沈んでいます。私たちが関西広域連合で行った調査では、

"ペットボトルは水や土が入ると海底に沈む。紀伊水道の友ヶ島の近くの深くくぼんでいるところで底引網を引くとペットボトルしか網に入らないことがある。"
関西広域連合琵琶湖・淀川流域対策に係る研究会 海ごみ発生源対策部会 報告書 参考資料 p.21

かつての豊かな漁場が海底に沈んだペットボトルで失われている、漁業にとっては今そこにある「現実の脅威」です。

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そして、河岸や海岸に大量のペットボトルが打ち上げられていることによる景観破壊も、大きな経済的損失であることはいうまでもありません。

確かに日本におけるペットボトルの回収率は、世界的に見ても高いのは事実です(何の経済的なインセンティブが無いにも関わらず、9割のペットボトルが回収されているのは、多くの消費者の無償の努力の結果です)。しかし、回収率が高いにもかかわらず、河岸や海岸は大量のペットボトルが流れ着いています。根本的な対策は急務なのは言うまでもありません。

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私のFacebookページで、この記事のことを取り上げたら、いつも河川清掃をされている方から、

"河川で葦などに引っ掛かっているのはほぼ動き無いので傷つきも少なく綺麗なモノが多いですね。増水し浮いたペットボトルが河口から出たてのモノも綺麗。でもその後は砂、岩、波で表面の状態が変わりますね。"

「好条件が重なった結果、数十年間経ってもマイクロプラスチック化しなかったものを調べたら、ペットボトルはマイクロプラスチック化しないことがわかりました」というのが正しい解釈ではないでしょうか(それは当たり前です・・・)。

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もちろん、PETボトルリサイクル推進協議会などが掲げる、ペットボトルの100%リサイクルの実現には異を唱えるものではありませんし、むしろ一刻も早く実現させてほしいと思っています。ただ、その実現のためにも、石油に依存した今のペットボトルの大量生産、大量消費を見直さなければいけないことは言うまでもありません。

いろいろなことを感じた記事でした。

では、また!

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2020年11月 5日 (木)

プラごみ問題とアメリカ大統領選挙

プラスチック汚染からの脱却法と大統領選挙

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NY市内のスーパーマーケットのごみ箱(撮影:2019年8月16日)

最終的な結果が明らかになるまで、もう少し時間がかかりそうなアメリカ大統領選挙です。今回の選挙では、気候変動対策を始め、環境政策に対する両候補の政策には大きな違いがありますが、プラスチックごみ問題についてもそれは同じです。

ネット上には、大統領選挙におけるプラスチック汚染への姿勢を比較した記事もいろいろと見つけることができます。たとえば、

では、両候補だけではなく、緑の党とリバタリアン党の候補の政策についてもわかりやすく解説しています。また、日本語のウェブサイトでは、ナショナルジオグラフィック日本版での解説が、環境政策全般について両候補の違いを分かりやすく解説しています。

さて、日本ではあまり報じられていませんが、両候補の姿勢に大きな違いが予想されるのが、Break Free From Plastic Pollution Act(プラスチック汚染からの脱却法、とでも訳すといいでしょうか)への対応です。

今年2月11日に、民主党のAlan Lowenthal議員とTom Udall議員によって連邦議会に提出されたこの法案は、成立すればEUや中国をしのぐ、現時点では世界でもっとも進んだ(そして厳しい)プラスチック汚染対策となる可能性があります。

そして、トランプ氏、バイデン氏のどちらが大統領になるのか、によってこの法案の命運も大きく変わると考えられています。

 

プラスチック汚染からの脱却法のポイント

  1. 拡大生産者責任の導入
  2. 全国での飲料容器へのデポジット制度の導入
  3. 使い捨てプラスチック製品の段階的な廃止
  4. レジ袋有料化
  5. リサイクル素材の使用義務化
  6. リサイクルと堆肥化の促進
  7. 電子タバコを含むタバコフィルターや漁具の影響評価と対策の立案
  8. 廃プラスチックの発展途上国への輸出禁止
  9. 地方政府によるより厳しい規制政策の保護
  10. プラスチック生産施設の新規建設の一時停止と影響評価の実施

出所:原田禎夫(2020)「世界で広がる脱プラスチックの動き」生活協同組合研究, 2020年9月号,Vol.536, pp.5-13.

 

この法案では、2022年から様々な使い捨てプラスチック製品を段階的に規制するだけではなく、全ての素材を対象として拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR)の導入を求めるものとなっています。

また,容器包装類や食器類だけではなく、現時点では他国ではまだ包括的な対策が講じられてこなかったタバコや漁具の遺棄に関しても、その影響評価と対策の立案に取り組むとされています。

さらに、アメリカではシェールガス革命によって天然ガスの供給量が増加したことで、それを原料としたエチレン生産も拡大し、各地で大型のエタンクラッカープラント(*)の建設が計画されています。これは、安価なプラスチック製品の国内生産の急増にもつながることもあり、新規建設や拡張計画の一時停止を求めるとともに、環境悪化を招かないよう大気汚染防止法や水質保全法の改正も求めています。

* エタンクラッカー:天然ガスに含まれるエタンを原料としてエチレンなどの化学材料を生産する装置のこと。

特に、エタンクラッカープラントへの対応は、まさに両候補の、そして民主党と共和党の姿勢が大きく異なる点でもあり、トランプ氏は「地域経済を破壊する!」と訴えて少なくない支持を得てきた一因でもあります。

しかし、民主党の大統領候補であるバイデン氏が当選した場合、この法案にも署名するとみられています。

 

アメリカの環境政策と地方政府

ところで、環境政策に後ろ向き、と考えられがちなアメリカですが、自動車の排ガス規制が有名ですが、州政府や自治体レベルでは、むしろ世界的に見ても厳しい規制に取り組んでいる例も少なくありません。

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ハワイのスーパーでは、紙袋が当たり前です。(撮影:2018年5月27日)

たとえば、ハワイ州では2015年にホノルル市で条例が成立したことで、全米で最初にプラスチック製レジ袋の提供が州全体で禁止された州となりました。今年1月1日からは、生分解性プラスチック製レジ袋も提供が禁止されています。

また、世界最大の都市、ニューヨーク市では2020年1月1日から発泡スチロール製トレイが使用禁止となり、レストランやカフェ、屋台でのテイクアウトメニューは堆肥化可能な紙容器で提供されています。違反した場合は、日本円で最高10万円の罰金となっています。

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紙製食器で提供される屋台のメニュー(撮影:2019年8月16日)

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発泡スチロール製トレイの禁止について報じる日本語情報誌「NYジャピオン」(撮影:2019年8月30日)

また、ニューヨーク州でも2019年1月1日からプラスチック製レジ袋の提供を禁止しており、今年からは州全体で発泡スチロール製容器の提供も禁止されました。

ニューヨーク市での発泡スチロール製トレイの使用禁止は、実は小学校の子供たちの運動から始まりました。その様子が、「マイクロプラスチックストーリー ぼくらが作る2050年」という素敵な映画になっています。ぜひご覧ください!(映画の中では、エタンクラッカープラント問題についてもわかりやすく解説されています)

トランプ政権下でも、海洋プラスチック問題に取り組む法律「Save Our Seas(SOS)2.0 Act」が全会一致で可決・成立し、プラスチック・イノベーション・チャレンジというプログラムも始まっています。ただ、このプログラムはリサイクルの推進が中心で、根本的なプラスチックごみの発生抑制に踏み込んだものではありませんでした。

 

日本もこのままでいいのか?

日本も、まるでアメリカに歩調を合わせるかのような、リサイクル中心の取組にとどまってきました。こうした点について、環境NGOは共同で「政府のプラごみ問題施策方針へのNGO共同提言 -代替品や熱回収より「総量削減・リユース」を-」を提出しています。

アメリカで政権交代が実現した場合、脱炭素社会、そして脱プラスチック社会に向けた世界の流れも大きく動くことは間違いないでしょう。日本が果たしてこのままでいいのか、私たちも問われています。

 

では、また!

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2020年8月18日 (火)

なぜ、環境対策に否定的意見"も"多いのか

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保津川の上流域、南丹市日吉町を流れる田原川

暑い日が続いています。子供のころは、気温が30度を超える日もそんなに多かったように思いませんが、今や最高気温が40度に迫ろうかという日も「当たり前」になってしまっています。

先日刊行された『環境情報科学49巻2号の特集「気候変動・温暖化問題への関心―意識をより高め,行動へと移させるためには何が必要か?」に社会-経済システムの観点から環境問題における意識と行動の関係性について論じてほしいと依頼をいただき、亀岡・保津川での経験をもとに論じる機会をいただきました。

 

環境問題と「負担感」

特集の巻頭を飾られた国立環境研究所の江守正多先生が、論文をもとにYahoo!ニュースにわかりやすい解説記事を投稿されていました。

いろいろなところでしばしば紹介されていますが、2015年の世界市民会議(World Wide Views on Climate and Energy)の気候変動対策についての調査(World Wide Views, 2015)でも、世界平均では66%の人が「多くの場合、自分たちの生活の質を高めるもの」と回答したのに、日本ではそれはわずか17%にとどまり、逆に60%もの人が「生活の質を脅かすもの」であると答えていました。

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出所:World Wide Views (2015)  最終アクセス2020年8月17日

実際、江守先生も指摘されていますが「Yahoo!ニュース」でも、若者が気候変動対策の必要性を訴えるような記事に対して、否定的なコメントが匿名ユーザーから投稿され、多くの「いいね」が付いているのはよく見かけますね。

 

環境保全は経済成長は両立しない?

日本ではまだまだ環境保全は経済成長と相反するもの、と考える人が多いのかもしれません。そして、これはプラスチックごみ問題でも同じです。

たとえば、最近、一人の高校生が日本を代表する菓子メーカーに、プラ包装を減らすように求めるオンライン署名を行ったところ、中には人格を否定するような中傷というべきコメントもたくさん寄せられ、それに対してメーカー2社が高校生の取り組みを支持するコメントを発表し、大きなニュースとなっていました。

この高校生の取り組みに対して、人格攻撃は論外としても、ネット上では「そんなことは前から分かってる」「メーカーは以前から努力している」といったコメントが多く見られました。

しかし、この署名の提出先となった会社をはじめいくつかの菓子メーカーの方と意見交換をする機会がこれまでにもありましたが、「どこから手をつけていいかわからない」「今すぐにでも包装を減らしたいが、消費者の反応が心配」と担当者のみなさんは異口同音におっしゃっていました。

以前から努力はもちろんされていますが、それでも今以上に踏み込むことは、個々の企業にとっては大きなリスクと感じられるのも仕方ないのもよくわかります。

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署名を受け取った亀田製菓からはプラスチック製トレーと個包装をやめた商品も販売が始まりました。

 

社会システムの変化が重要

江守先生は、分煙を例に、個人の努力だけにゆだねるのではなく、社会のシステムの変化の必要性を繰り返し訴えてこられています。

気候変動対策のためのシステムの変化を起こすための筋道は,問題に本質的な関心を持った一部の人たち(多いほうがいいが,大多数である必要はない)がシステムに本質的な働きかけを行うことであり,大多数の人たちがわずかな関心を持って自分にできる環境配慮行動を人知れず行うことではない。

出所:江守(2020)最終アクセス2020年8月17日

そして、江守先生は、

気候危機においてそのような「出口」に相当するのが,エネルギー,交通,都市,食料などのシステムの脱炭素化である。その必要性を理解し,それを心から望み,それに協力できることがあるならば惜しまないことが,人々に本当に必要とされる気候変動問題への「関心と行動」であると筆者は考える。

出所: 江守(2020)最終アクセス2020年8月17日

とも指摘されています。自治体の脱プラスチックの取り組みにおいても、単に特定の品目を規制するだけで終わらず、地域全体で廃棄物管理政策を根本的に見直して、地域の発展につなげていくことが大切です。

今、急速に広まっている循環経済(サーキューラー・エコノミー)へのシフトはまさにそうした取り組みですが、それを地域レベルにも落とし込んで、市民一人一人が幸福を実感できる仕組みを作り上げることが欠かせません。

 

一歩ずつしか社会は変われない

では、すべての問題を一気に解決してしまうような社会のシステムの変化はありうるのか?というと、残念ながらそんな「魔法の杖」はないでしょう。

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最寄りのコンビニから10km以上離れた田原川(京都府南丹市)の河原にも、レジ袋はじめコンビニごみもたくさん落ちていました。

たとえば、レジ袋規制を行ったくらいでは、海洋プラスチックごみにも気候変動にも、目に見える変化は起こらないでしょう。

レジ袋は海のプラごみのごく一部だ、プラスチックの焼却で排出されるCO2は全体のごく一部だ、そんな批判はたくさんありますし、それを否定することはできません。

しかし、そのほんのごく一部の(しかも無くても困らない)使い捨てプラスチックのシンボルのような製品すら規制できずに、ほかの大多数の石油製品の消費を削減することなど夢のまた夢でしょう。言い換えると、そうしたところから一つずつ取り組み、人々の行動変容につなげていくしかないということです。

では、どのような取り組みが人々の行動を変えるのでしょうか?は、改めて書きたいと思います。

では、また!

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2020年7月31日 (金)

ポイ捨てだけが悪いのか?

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最近はマスクなどコロナごみのポイ捨ても多いですね。

いよいよ明日(8/1)、私の住む亀岡市でも「ポイ捨て禁止条例」が施行されます。プラごみゼロに取り組む亀岡市で、レジ袋禁止のようにある意味事業者のみなさんに制約を課すのであれば、海や川の大きな原因になっているポイ捨ても罰しないといけないのでは?ということで市議会で議員提案で成立した条例です。

その背景には、ごみのリサイクル率12年連続全国一の鹿児島県大木町を市議のみなさんが視察された折に、ポイ捨て禁止条例がまちづくりに大きな成果を挙げてきた、ということを学んでこられて「議員提案で条例を作ろう!」となったとお聞きしています。

条例の制定にあたっては、私が代表理事をつとめているプロジェクト保津川でも、条例の制定に向けた意見書を提出しました。

この条例では、もちろんポイ捨てを罰する(過料を徴収する)ということも大切ですが、それと同時にポイ捨てさせない町づくりを目指すべきではないかということで、自販機横への回収ボックスの設置の義務化などを要望し、条例にもそのことを盛り込んでいただきました。

 

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花火大会の後のごみはどこでも大きな問題に。

 

さて、7月1日から始まったレジ袋の有料化ですが、「レジ袋は悪くない、ポイ捨てするヤツが悪い!」という議論も少なくありません。そこで今回はこの「ポイ捨て」問題とプラごみ対策について考えてみたいと思います。

お断りしておきますが、決して「ポイ捨て」を擁護するわけではありませんので悪しからず(苦笑)

 

なぜ、ポイ捨てを取り締まるだけでは不十分なのでしょうか?それは簡単なことで、すべてのポイ捨てを取り締まることは不可能だからです。

 

広範囲に散乱するポイ捨てごみを、最も低い費用で回収できるのは誰でしょう?

それは言うまでもなく、ポイ捨てした人自身です。

その次に低い費用で回収できるのは、ポイ捨てされたごみを見つけた人ですよね。

そしてこうした人々がごみを拾い、市町村などが引き受け、税金を使って処分しています。

 

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保津川でも雨のあとはあちこちにレジ袋の花が咲きます。

 

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大雨のあとは、頭上のはるか上にレジ袋などシート系のごみが引っ掛かります。

 

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保津川下りの船頭さんやラフティングのインストラクターのみなさんが、一つ一つ、手で回収してくださっています。

 

いうまでもなく、レジ袋やペットボトルなどのプラごみのポイ捨てはその回収費用がかかるだけではなく、散乱したごみによる景観の悪化や、さらに生態系への悪影響といった負の外部性をもたらします(外部性についてはこちらを参照)。

しかし、こうした費用は消費者が直接負担するわけでもないため、「タダ」と錯覚され、プラスチック製品は社会的に最適な水準を超えて利用され、大きな外部費用を発生させてしまいます。

 

では、どうすればポイ捨てを防ぐことができるでしょうか?

そのためには、ポイ捨てのようなごみの不適切な処理に対して、監視をすればいいかもしれません。

でも、その監視費用は天文学的な額になるでしょうし、ポイ捨てをした人全員に罰金を科すことは事実上不可能でしょう。

 

レジ袋の有料化のように、一定の額を上乗せする方法どうでしょう?

これも、これまでに議論してきたように、ポイ捨てが社会に及ぼす費用に見合った額を販売価格に上乗せできればいいですが、広範囲にわたって不特定多数の人によって利用される使い捨てプラスチック製品に正確にその額を上乗せすることは不可能です。

モノによっては、別の解決手法もあるのですが、それはまた機会を改めてご紹介しますね。

 

そして、レジ袋そのものがもつ環境リスクについても考えないといけません。

レジ袋は石油から出来ています。きちんとごみとして出されたとしても、燃やしてしまえばCO2の発生源にもなり、気候変動を防ぐという観点からも望ましくありません(日本でもプラスチックごみはほとんど焼却処分されています)。

レジ袋の原材料のポリエチレンは、石油精製の際にできるナフサから作られているのでエコだ、という主張もありますが、そもそも世界が脱石油に向かう中ではあまり意味のある主張ではないでしょう(そして日本はポリエチレンはすでに輸入超です)。

 

さらに、レジ袋の有毒性にも触れておく必要があります。

 

それは、DEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)という化学物質の存在です。DEHPは可塑剤、つまり柔らかくするために添加されています。

東京農工大学の高田秀重先生らのグループの調査によると、一般的に町中で買うことのできるプラスチック製品や海岸に流れ着いたプラスチック製品を調べたところ、ペットボトルのフタ、レジ袋、食品容器のDEHPの濃度が特に高かったということです。中でも特にレジ袋が高い結果になり、他のプラスチックの10倍多く含まれていました(図1)。

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図1 購入製品および海岸漂着プラスチック製品中のフタル酸エステル濃度

出所:環境省 環境研究総合推進費「海洋プラスチックごみ及びその含有化学物質による生態影響評価」(SII-2-2)中間研究成果報告書



このDEHPのについては、メーカーで作る業界団体は危険性はない、という立場です。


Q1. DEHPは危険な物質ですか?

DEHPはその有害性がこれまで世界で最もよく調査されてきた物質であり、医療用途を含め広く使用されてきましたが、ヒトに健康問題を引き起こした事例はありません。
各国の公的なリスク評価書(EU、米国、日本)では現行使用でのリスクは認められず、現行を超える規制は必要ない、と結論付けられています。
安全性の目安となる一つの具体例;ラットを用いた経口投与試験でのLD50値(半数致死量)は30~34g/体重kgであり、その値は食塩(8~10)や砂糖(8~12)より大きく、急性毒性は極めて低いです。また、皮膚の吸収毒性や、眼や皮膚に対する刺激性も極めて低く、危険な物質ではありません。

出典:可塑剤工業会ウェブサイト(最終アクセス:2020/7/31)

 

ですが、ネズミ類を用いた動物実験で大量に投与した際に毒性が認められた、ということで、以前から、DEHPは日米欧各国で、玩具などへの使用は禁止されてきました。現状では、ヒトへの影響は不明な部分も多いということで、「予防原則」にもとづいて規制されています。

 


予防原則

欧米を中心に取り入れらてきている概念で、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、人の健康や環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。

(中略)

1992年の国連環境開発会議(UNCED)リオ宣言は、原則15で予防原則について以下のように記している。「環境を保護するため、予防的方策(Precautionary Approach)は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない」。

これは、地球温暖化対策などで、科学的な不確実性を口実に対策を拒否または遅らせる動きの牽制とする意味合いもある。(2015年2月確認)

出典:EIC環境ネット環境用語集(最終アクセス:2020/7/31)

 

EUではDEHPは「高懸念物質」の一つに指定され、2019年7月22日より電子・電気機器における特定有害物質の使用制限に関する改正RoHS指令(RoHS2.0)により、使用禁止物質に指定されました。

また、 人々の健康や環境保護、欧州の科学産業競争力の維持向上を目的にした化学物質の登録・評価・認可・制限に関する法令であるREACH規則でも、一部例外はあるものの今年7月7日以降、市場で販売されるすべての製品で使用が制限されています(例外あり)。

 

もちろん、レジ袋を食べてしまう人はいないでしょう。

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亀岡市内からたった10数km下った保津峡でも、レジ袋はすでに劣化してボロボロに。

 

でも、薄くてもろいレジ袋は、簡単にマイクロプラスチックとなってしまいます。それが意図してポイ捨てされたものなのか、それとも風に飛ばされたというように意図せずして流出したものかを問わずに、です。

マイクロプラスチックとなったレジ袋は、プランクトンが食べ、それを魚が食べ、そして最後には私たち人類がその魚を食べます。実際に、こうしたプラスチックに含まれる有害物質が、海鳥の体内に移行して蓄積しているという研究成果も明らかになっています(Tanaka et al. 2020)。

 

ポイ捨ては悪い。でも、レジ袋そのものも悪い。

だから世界の多くの国や自治体が、有料化、そして使用禁止へと舵を切っているのです。

 

レジ袋はじめ、プラごみ問題をポイ捨てだけに原因を求め、自己責任の問題としてはいけないのか?、今回は化学的なことも含めて解説しましたが、次回は費用負担の面からも考えてみたいと思います。

 

では、また!

 

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2020年7月30日 (木)

若者回復率

先日、気になるニュース記事がありました。治部れんげさんによるレポートです。

城崎温泉や日本一のカバン産地として、またコウノトリの野生復帰でも有名な、兵庫県北部の町、豊岡市の新しいの挑戦の記事です。

以前、私が代表をしているNPOで開催したシンポジウムにも豊岡市長の中貝宗治さんにお越しいただき、「コウノトリとの約束」だから、とコウノトリの野生復帰、そしてコウノトリ"も"住めるまちづくりなど素敵なお話を伺いました。

その中貝市長が、危機感を持った数字。それは「若者回復率」でした。若者回復率とは「10歳代の転出超過数に対して20歳代の転入超過者数が占める割合」と定義されます。簡単に言うと、進学で地元を離れた子供たちが就職や結婚を機会に、故郷の町に帰ってきてくれたかどうか、を表す指標です。

ちなみに、人口の増減は、出生数と死亡数の差による自然増(減)と、人口移動すなわち流入数と流出数の差による社会増(減)とに分けて考えられますが、このうち若者回復率で見ているのは「社会増(減)」、簡単に言えば地域間の「移民」の状況を見ているわけです。

※近年は少子高齢化社会を反映して、多くの地域で自然減が社会増を上回る傾向にあります。

日本中の多くの地方都市では、10代は大学や専門学校への進学のため故郷を離れ都市部に移り住むことから「転出超過」となります。20代になると就職や結婚をきっかけに一定割合の人は地元に戻ってきますが、人口増につなげるのはなかなか難しいことです。

 

経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供している地域経済分析システム(RESAS:リーサス)を使って、豊岡市の年齢階級ごとの人口の増減を見てましょう。

 

01出所:RESASを用いて作成

確かに、10代で大きく減少し、その後20台で半分弱が戻ってきていることがわかります。しかし、もう少し詳しく見てみると、そこにはある大きな「違い」がありました。2010年と2015年の国勢調査のデータをもとに「若者回復率」を計算してみると、こんな結果になります。

 

  合計
10代人口の社会増(減) -1,071 -1,062 -2,133
20代人口の社会増(減) 561 282 842
若者回復率 52.4% 26.5% 39.5%

出所:国政調査をもとに筆者作成

 

男性は、半分強が豊岡に帰ってきているけれど、女性は4人に1人しか帰ってきていない。しかも、男性の回復率は緩やかに上昇しているけれど、女性はずっと下落傾向にあるそうです。

中貝市長は、こんなことをおっしゃっています。

 

「とても恐ろしいことが起きています」と中貝市長は言う。そして、こうなる理由は想像できる、とも言うのである。

「地元で親たちは、長男には『帰ってこい』と言っています。一方で女の子には『どうせお嫁に行くから、好きなようにしていい』と言っている。その結果、女性が豊岡に戻ってこなくなっている。あらためて見ると、市役所にも市内企業にも働く女性が少なくて、リーダー職につく女性はほぼいない。このジェンダーギャップを放置すれば社会・経済的な損失は、とてつもなく大きい」

出典:人口8万人の市長が「ジェンダーギャップ」に目覚めた理由~兵庫県豊岡市の持続可能なまちづくり(前編)(最終アクセス:2020年7月30日)

 

亀岡市とほぼ同じ人口規模の豊岡市、京阪神との距離は違いますが、自然が豊かなことも、1次産業が盛んでおいしい特産品がたくさんあることも、よく似ています。むしろ、豊岡市のほうが、城崎温泉やコウノトリなど、悔しいけれど全国的な知名度は高い。

今まで日本の多くの自治体は、「出生率」の回復を人口政策の柱の一つに据えて、子育て支援の充実(保育所の増設など)や働く場所の確保(多くは工場や大型商業施設の誘致)を進めてきました。ところが、現実に起こっていることは、出生率が全国最低の東京都に、人口が集中し続けているということです。

若い世代やファミリー層が、東京に流入し続けているのです。また、こんなニュースもあります。

東京圏への転入者は、進学や就職により、20~24歳、25~29歳、15~19歳の順で多くなっています。また、2019年の東京圏への転入超過者数を男女別でみると、男性よりも女性のほうが1万7,000人近く多くなっています

こうした状況について、政府では、

 

「女性特有の理由として「帰りたいのに、地元の価値観(女性への偏見等)になじめない」という意見が聞かれた。」

出所:「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業報告書」(最終アクセス:2020年7月30日)

 

と指摘しています。また、現在策定中の「第5次男女共同参画基本計画」の策定にあたっては、さらに突っ込んだ指摘がなされています。

 

〇 近年、若い女性の大都市圏への転入超過が増大しており、また、地方の都市部に周辺の地域から人口が流入する状況もみられる。安心して暮らすために十分な所得とやりがいが得られる仕事ができ、家族を形成しやすく、暮らしやすい、女性にとって魅力的な地域を作っていかなければ、持続可能な地域社会の発展は望めない

〇 地方出身の若い女性が東京で暮らし始めた目的や理由として、進学や就職だけでなく、「地元や親元を離れたかったから」といったことが挙げられている。その背景として、固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が根強く存在しており女性の居場所と出番を奪っていることや、地方の企業経営者等の理解が足りず女性にとってやりがいが感じられず働きにくい環境であること、女性も男性も問題意識を持ちながらも具体的な行動変容に至っていないことなどが考えられる。

出所:「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)【案】」(最終アクセス:2020年7月30日)

 

さて、では私の住む京都府亀岡市の若者回復率はどうなっているのだろう?と気になってこちらも調べてみました。

まずは豊岡市と同じようにRESASで、全体的な増減を見てみましょう。

 

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出所:RESASを用いて作成

 

豊岡市と少し動きが違いますね。流出のピークは10代ではなく、20代後半です。京都市のすぐ隣に位置していて、自宅から京阪神の大学に通いやすい(しかも京都市には大学はとても多い)、大阪にも通勤圏内である、ということもあって、就職してしばらく経ってから(お金が貯まってから?)市外へ引っ越す人が多いように見えます。

それから、近年になって、若者の人口流出が加速しているようにも見えます。では、豊岡市と同じように、若者回復率を国勢調査のデータから算出してみましょう。

 

  合計
10代人口の社会増(減) -336 -332 -659
20代人口の社会増(減) -1,028 -609 -1,637
若者回復率 -305.6% -188.9% -248.5%

出所:国政調査をもとに筆者作成

 

え??

男 -305.6%、

女 -188.9%!!

マヂデスカ・・・?

 

目を疑うような数字が出てきました・・・。

 

ジェンダー・ギャップどころか、若者全体から見放されている、といっても言ったほうがいいかもしれません。

 

豊岡市の状況が「まだマシ」と思えてくる悲惨な数字です。ちなみに2010年と2015年の国勢調査の結果をもとに、年代別に社会増(減)を見てみると、

 

年代別社会増(減)
0~4歳→5~9歳 102 73
5~9歳→10~14歳 -6 4
10~14歳→15~19歳 -19 26
15~19歳→20~24歳 -317 -348
20~24歳→25~29歳 -857 -490
25~29歳→30~34歳 -171 -119
30~34歳→35~39歳 -30 -39
35~39歳→40~44歳 -10 -11
40~44歳→45~49歳 -3 -33
45~49歳→50~54歳 -32 -55
50~54歳→55~59歳 -25 -51
55~59歳→60~64歳 -27 -38
60~64歳→65~69歳 5 -8
65~69歳→70~74歳 8 -16
70~74歳→75~79歳 -15 16
75~79歳→80~84歳 42 8
80~84歳→85~89歳 -23 27
85歳~→90歳~ -11 0

出所:国政調査をもとに筆者作成

 

男性は定年退職のころで少しプラスですが、あとはもうほとんどマイナスばっかり!

豊岡市など他の地域と違い、男性の若者回復率が(マイナス方向に)極端に大きいのは、市内に立地する京都学園大学(現京都先端科学大学)の学生さんの流出入により、その効果が増幅していることは考えられます(私もかつて非常勤講師をしていましたが、男子学生の比率が高い大学でした)。

そうだとしても、ちょっとヤバくないですか、この数字。

ちなみに、どんな地域との間で人は動いているのでしょう。もう一度、RESASで調べてみると、

 

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出所:RESASを用いて作成

 

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出所:RESASを用いて作成

 

男女とも、京都市にどんどん吸い取られ、大阪府や滋賀県に出ていく人も多い一方、南丹市や京丹波町から引っ越してくる人が少しある、という状況です。

ここで注意しないといけないのは、亀岡市が人口を「吸い取ってる」相手の南丹市や京丹波町も、人口が加速度的に減少している地域である、ということです。また、近年は外国人技能実習生のみなさんも少なくありません。

つまり、いつまでも安定的に人口を周辺地域から「補充」することは望めない、という状況にあるといえるでしょう。

 

 

オッサン中心社会から脱却しないことには、ほんと、未来がない(もう私も十分オッサンですけれど)。

新型コロナウイルスの世界的な拡大は、「田園回帰」ともいうべき流れも生み出しています。SDGsの取り組みも、いよいよ本格化しています。第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)【案】では、次のようにもふれています。

 

〇地域経済を支えている中小企業・小規模事業者は、生産年齢人口が減少していく中で人手不足に直面している。地域における男女共同参画・女性活躍の推進は、優秀な人材の確保・定着につながり、地域経済の持続的な発展にとって不可欠である。

〇また、就農人口が減少する中で、都市部への女性の流出が続いているとともに、基幹的農業従事者に占める女性の割合は低下傾向にある。これまでも女性が新たな発想と取組で農林水産業分野の活性化に取り組んできた。農林水産業の持続性を確保するためには、女性の活躍に向けた支援が欠かせない。

〇持続可能な社会という観点からは、気候変動問題等の自然環境や社会環境・生活環境に係る問題が世界共通の課題となっているところ、環境問題の取組に当たって男女共同参画の視点が反映されることが重要である。

 

もう一つ、面白いデータを。2015年から2050年にかけて、亀岡市内のどの地域の人口が大きく増加/減少するのか、1km四方ごとに示す地図をRESASで作ってみました(参考までに右側の赤いエリアは、人口を引き寄せてる京都市中心部です)。

 

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出所:RESASを用いて作成

 

まあ、全域で減るのですが(涙)

今、人口が急増しているエリアの減り方が特に酷いですね。京都市のすぐ隣、という超がつくほどの優良農地や里山を開発して造成してきたニュータウンが壊滅状態です。

一方、かつて「株式会社神戸市」と呼ばれて、「山、海へ行く」とも言われた大規模な開発を行ってきた神戸市が、新しい取り組みを始めます。

神戸のような都市がこういう取り組みを本気でスタートしたら、郊外のベッドタウンの(未だに開発志向の)自治体は、ヤバいだろうなぁ、とも思ったりもします。

幸い、亀岡市は、まだまだ豊かな自然も残されています。全国に先駆けてプラスチックごみゼロを目指す取り組みを進めてきて、「SDGs未来都市」、そして「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれました。こうした取り組みを進めるためにも、男女の別なく、また年齢の別なく、いろんな人の知恵と力が必要なのは言うまでもありません。

若い人が出て行って、なぜ帰って来ないのか、まずはそこを調べてみなければ、と思った衝撃的な数字でした。

 

では、また!

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2020年7月 9日 (木)

レジ袋有料化、高い?安い?その2

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連日の大雨で各地で大きな被害が出ていて心が痛みます。私の身近なところでも大きな被害が出ており、気候変動がいよいよ現実の脅威となってきたと感じます。

さて、今回の前回に引き続き、レジ袋有料化について考えてみたいと思います。みなさんの近くのお店では、レジ袋は何円になったでしょう?筆者の住む京都府亀岡市(ちなみに来年1月からはレジ袋は提供禁止、紙袋なども無償提供は禁止となります)では、スーパーや一部の個人商店ではすでに有料化には取り組んでいただいていましたが、もちろん7月1日からはすべてのお店で有償での提供になっています。

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こちらのホームセンターはサイズや用途ごとに細かく価格を設定されています。

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こちらの書店はバイオマス25%以上配合の「環境にやさしい素材」ということで、レジ袋の無料配布を継続されていました。でも、こうした代替レジ袋は、環境にやさしいどころか、最悪の選択になりうる、と国連環境計画(UNEP)が警告を出し、大きなニュースにもなりました。

ちなみにレジに並んで見ていた限りですが、半分以上のお客さんは無償であってもレジ袋を辞退されていました。「習慣」って大事ですね。

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最近オープンしたこちらのカフェでは、紙袋のみの提供で、30円。ストローやコップも可能な限りプラスチック製品は避けてくださっています。

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こちらのケーキ屋さんもプラスチック製レジ袋はすでに廃止、紙袋をサイズごとに有償で30円から60円まで。ちなみに進物用の焼菓子には、素敵な風呂敷も用意されていましたよ!

 

でも一体、プラスチック製レジ袋、お値段はいくらにすればいいのでしょう?前回に続いて、経済学を使って考えてみたいと思います。

前回は、「外部性」という考え方をもとに、下図ののように社会的に望ましいレジ袋の生産量(X*)を実現するためには、負の外部性を含む社会的限界費用(SMC)と需要曲線(D)との交点(E)から導かれる社会的に最適な価格P*を実現すればいいことを説明しました。

負の外部性と厚生損失

Fig2

では、この社会的に最適な価格P*はいったいどうやったら実現できるのでしょう?

20世紀を代表するイギリスの経済学者、ジョン・メナード・ケインズの終生のライバルとも言われるアーサー・セシル・ピグー(もちろん彼もまた高名な経済学者です)は、税や補助金をうまく使うことで、理論的には外部性の問題を解決できることを示しました。のちにピグー税と呼ばれる考え方です。

もう一度、前回の記事の「負の外部性と厚生損失」の図を思い出してください。

生産者が把握できる原材料価格や人件費、光熱水費といった「目に見える費用」から導かれる私的限界費用(Private Marginal Cost: PMCと消費者の需要曲線(Dが交わるところE'で、生産量(X'価格(P'が決まりました。

しかし、レジ袋は散乱すると景観を悪化させ、海洋プラスチック汚染を引き起こし、焼却したとしても地球温暖化の原因である温室効果ガスを増やしてしまいます。こうした「目に見えない費用」を「負の外部性」ということは前回、紹介しました。

こうした「負の外部性」、すなわち社会全体で発生する費用から導かれる社会的限界費用(SMC需要曲線(Dの交わるところ(E)で、社会全体にとって望ましいレジ袋の生産量(X*社会的に望ましい価格(P*が決まります。

でも、外部性は市場取引を通じないからそう呼ばれるわけで、放っておいてこの状態が実現するわけではありません。

ピグー税

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そこでピグーは、政府が外部性を相殺するように課税(あるいは補助金)で調整する方法を考えました。

社会的に望ましい生産量(X*)で生じる、社会的に許容されうる汚染水準を「最適汚染水準」といいます(これまた一般的にはなじめない言葉ですが、あくまで数学的な表現です)。

この最適汚染水準における私的限界費用(PMC)と社会的限界費用(SMC)の乖離分に相当する金額を、財1単位あたりの税(TAX、たとえばレジ袋1枚あたりの税)として外部不経済の発生者である生産者に課税することで、社会的に最適な価格(P*最適な生産量(X*を実現できる、というものです。

前回も書きましたが、今回の日本のレジ袋有料化は、とりあえず無償配布を禁止しようというものです。それまでも、もちろんレジ袋はお店にとってはお金を払って仕入れるもので、その代金は私たち消費者は知らないうちに商品価格に上乗せされています。

言い換えると、レジ袋が必要ない人までレジ袋代金を負担させられていたといえるでしょう。もちろん、それを禁止して、必要な人が必要なレジ袋代を支払うという「見える化」の効果は決して小さくなく、海外でも有料化により散乱するレジ袋が大幅に減少した、という例は報告されています(たとえばMarine Conservation Society 2016)。

ただ、今回紹介したピグー税のように、本当にレジ袋がもたらす被害額が適切に価格に反映(上乗せ)されているのか、というとそういうわけではありません。

とりあえず言えることは、レジ袋1枚数円、というのは安すぎる、ということでしょう。

ただ、ピグー税を導入しようと思っても課題もあります。

ピグー税をうまく設定できる前提条件として、まず規制当局である政府の「情報能力の完全性」があげられます。これは、政府が外部性の大きさを(貨幣価値の意味で)きちんと測定できる、ということです。しかし、それは極めて困難なことは言うまでもありません。

次に、「政策関与の非対称性」があります。これは、外部性を発生させる財にのみ税を課す(ないし補助金を交付)、というものです。しかし、レジ袋がもたらす環境問題は、意図せず風に飛ばされることもあるでしょう。レジ袋そのものがもつ様々なリスクもありますが、ポイ捨てという特定の人の行為によってもたらされるという面もあります。でも、こうした複合汚染は、そもそも原因の特定が困難です。

 

海洋プラスチック汚染をめぐる問題では、外部性の大きさが分からないだけではなく、社会の誰もが加害者であると同時に被害者でもあるため、原因と被害の特定も困難です。

つまり、レジ袋の価格をどれくらいにすればいいのか、は実はとっても難しい問題なのです。

次回は、海外の事例も参考に、レジ袋規制はどういう方策が考えられるのかを考えてみたいと思います。ではまた!

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2020年7月 1日 (水)

レジ袋有料化、高い?安い?その1

世界で最初にレジ袋を禁止にした国は?

いよいよ今日から日本もレジ袋有料化がスタートですね。よくわからない例外規定があったり、エコバッグでコロナに感染するリスクが?と話題になったりしていますが、とにもかくにもスタートです。

ちなみに、エコバッグ利用によるコロナ感染リスクを気にしても仕方ない、と専門家も明言されていますのでご安心を。

エコバッグ、コロナリスクは? 専門家「気にし過ぎ不要」―レジ袋有料化

専門家らは「エコバッグとレジ袋のどちらが清潔だという根拠はなく、気にし過ぎは良くない」と、過剰な心配は不要と訴える。

時事通信2020年7月1日

さて、日本ではやっと(例外もありつつ)有料化がスタートしましたが、世界の状況はどうなっているのでしょう?

少し古いデータになりますが、国連環境計画(UNEP)の2018年の報告によると、127ヵ国がレジ袋に対するなんらかの法規制を実施しており、うち83ヵ国は無料配布を禁止していました。特に発展途上国では、廃棄物処理の社会的なシステムが十分ではないこともあってごみ問題が深刻化していることを背景に、アフリカでは25ヵ国、アジアでは14ヵ国が国あるいは地方自治体でレジ袋の無料配布を禁止していると報告されています。

レジ袋の製造・無料配布・輸入を禁止している国

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出典)UNEP(2018) ”Legal Limits on Single-UsePlastics and Microplastics:A Global Review of National Laws and Regulations", p.16


ちなみに、プラスチック製レジ袋を最初に「禁止」した国はどこでしょう?

それはバングラデシュと言われています。バングラデシュでは、プラスチックごみにより雨水の排水が阻害され大規模な洪水が発生したことから、2002年にプラスチック製レジ袋の提供を禁止しました。ちなみに、レジ袋禁止によってもたらされた社会的な便益は、約5億8500万タカ、当時の為替レートで約10億円の効果があったとされています(Ahmed and Gotoh, 2005)。

外部性という問題

私は経済学を専門としていますが、経済学においてはごみ問題をはじめとした環境問題は、「外部性」によってもたらされる問題であると考えます。

外部性とは、ある経済主体の活動が市場を経由することなく、他の経済主体に影響を及ぼすことをいいます。

外部性が他の経済主体にとってプラスの影響をもたらす場合には「正の外部性」(あるいは外部経済)、マイナスの影響を与える場合は「負の外部性」(あるいは外部不経済)といいます。

和歌山県・友ヶ島の海岸に漂着したごみ

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では、外部性がきちんと価格に反映されないと、どうしたことが起こるでしょう。

もし正の外部性が存在する場合、その財がもたらすメリットが適正に価格に反映されないので、自由な市場においては社会的に望ましい水準に比べて過小供給となります。

一方、負の外部性が存在する場合、その財のもつデメリットが費用に反映されないため、社会的に望ましい水準よりも過大に生産が行われ、より大きな被害をもたらすことになります。

 

このことを図を使って説明してみましょう。

負の外部性と厚生損失

Fig2

縦軸に価格(P、横軸に財の生産量(Xをとります。

モノ(財)の価格が高いと少ししか買えませんし、安くなるとたくさん買えますよね。ですので、ある財に対する私たち消費者の需要量と価格の関係を示す需要曲線(Dは右下がりの線として描かれます。

  • 数学では、直線は曲線の一部(傾きが常に一定のもの)です。なので、需要「曲線」といいます。

一方、生産者の場合はというと、モノ(財)を作れば作るほど追加的に費用がかかります。これを限界費用(Marginal Cost: MCと言い、一般的には右上がりの線として描かれます。

  • 余談ですが、少し前に「限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭」(ジェレミー・リフキン、2015)という本が注目を集めました。IoT(モノのインターネット)インフラへと急速に移行することで、モノやサービスを追加的に生み出すコスト(限界費用)が限りなくゼロに近づくため、将来モノやサービスは無料になってシェアリングエコノミーが広がり、資本主義経済は大きく変わる、というお話です。この「限界」という言葉はmarginalの訳で、数学でいう微分のことですが、経済学を学び始めたばかりの学生が戸惑う言葉の代表格ですね。

さて、生産者は原材料価格や人件費、光熱水費といった「目に見える費用」は簡単に把握できます。この「目に見える費用」のことを私的限界費用(Private Marginal Cost: PMCといいます。そして、いくつかの前提条件を満たすとき、私的限界費用曲線(PMC)と供給曲線(S)は一致します。

何もしなければ、消費者の需要曲線(D私的限界費用曲線(PMCの交わるところE'で、生産量(X'価格(P'が決まります。

 

ところが、レジ袋をはじめとした使い捨てプラスチックは、生き物やヒトの健康への影響だけではなく、埋め立てごみの急増や焼却処分による温室効果ガスの増加、そしていつまでも分解しないことで海のプラスチック汚染を引き起こすなど、さまざまな環境問題の原因となっています。さらにはいったん環境中に流出したプラごみを回収するためには膨大な労力が必要です(というよりは回収不能です)。使い捨てプラスチックは負の外部性を持つ典型的な財といえるでしょう。

こうした社会全体におよぼす負の影響も含めたものが社会的限界費用(Social Marginal Cost: SMC)です

  • 社会的限界費用(SMC私的限界費用(PMCの差が外部性の大きさになります。ただし、それがいったいどれくらいの大きさになるのかは「よくわからない」というのがポイントです。だって、市場の「外部」の話なのですから!

さて、社会全体で見たときに望ましい生産水準(X*)は、というと、需要曲線(D社会的限界費用(SMCの交わる点(E)で決まります。

負の外部性(外部不経済)が存在する場合、社会的に望ましい価格よりも安く(P*→P')、社会的に望ましい量を超えて生産(X*→X’されてしまいます。

より安く、より多く、そりゃあいつまで経っても問題は解決しないわけです。

  • ちなみに、難しい説明は割愛しますが、負の影響は社会全体に損失をもたらします。それが図中のEE'Fであらわされる厚生損失です。簡単に言うと、社会から失われた「価値」や「富」です。より豊かになりたければ、すなわち社会的厚生を高めるためには、何とかしてこの厚生損失を無くさないといけません。

たとえば碓井・田崎(2016)では、全国のスーパーやコンビニを対象に、レジ袋などの容器包装について1)有償提供、2)景品等の提供、3)繰り返し使用可能な買物袋等の提供、4)消費者への意思、5)容器包装の量り売り、を比較したところ、1)有償提供だけが削減の効果があることを明らかにしています。

レジ袋もタダで配るのではなく、有料化(有償化)したほうがよさそうですね。では、レジ袋の「価格」はいくらであればいいのでしょう?

社会的に望ましい生産量(X*)において、生産者が認識できる私的限界費用(PMC)はP'となります。でも本当は、レジ袋の価格はそれより高い、需要曲線(D)と負の外部性を含む社会的限界費用(SMC)の交点(E)から導かれるP*でないといけません。

レジ袋有料化、といっても多くのお店では、せいぜい数円どまりです。それは単なる資材価格として、従来は商品価格に含まれていたレジ袋の費用を、私たち消費者に「見える化」しただけ。何か追加的に上乗せされたわけではありません、「有料化」されたわけではないんですよね

もちろん、「見える化」に一定の効果があることは事実ですが、本当に社会的に望ましい水準までレジ袋の使用量を減らせるのか、というと大いに疑問が残ります。

実際のところ、いったいレジ袋は何円にすればいいのでしょう?あるいは、ほかの方法はあるのでしょうか?次回はそうしたことを考えてみたいと思います。ではまた!

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2020年6月28日 (日)

レジ袋は海ごみのごく一部、というのは真実か?

7月1日からの全国一斉のレジ袋有料化を前に、議論が盛り上がっています。今まであまりに「使い捨てプラスチック」を何も考えずに使ってきた(国民1人当たりの使い捨てプラスチック消費量はアメリカについで世界2位!)ことを見直すいい機会になった、という意味ではレジ袋有料化の目的の1つはすでに達せられたといってもいいかもしれませんね。

さて、友人からこんなWebサイトを教えてもらいました。

脱プラ、脱ポリ、紙袋へ切り替えをご検討のお客様へ(清水化学工業株式会社)

ポリ袋は実はエコ商材なんです。

  1. ポリエチレンは理論上、発生するのは二酸化炭素と水、そして熱。ダイオキシンなどの有害物質は発生しない。
  2. 石油精製時に(ポリ)エチレンは必然的にできるので、ポリエチレンを使用する方が資源の無駄がなく、エコ。
  3. ポリ袋は薄いので、資源使用量が少量で済む。
  4. ポリ袋は見かけほどゴミ問題にはならない。目に見えるごみの1%未満、自治体のごみのわずか0.4%。
  5. 繰り返し使用のエコバッグより、都度使用ポリ袋は衛生的。
  6. ポリ袋はリユース率が高い。例)レジ袋として使用した後ゴミ袋として利用
  7. 都内ではサーマルリサイクルし、ごみ焼却燃料になり無駄とならない。
  8. ポリ袋は紙袋の70%のエネルギーで製造可能。
  9. ポリ袋の輸送に必要なトラックの量は、紙袋の7分の1。
  10. ポリ袋の製造に必要な水の量は、紙袋の25分の1。
  11. ポリ袋は紙袋に比べ、ごみにしてもかさばらない。
  12. 紙袋は再生できるものと再生できないものがある。ラミネート加工されているものや紐の種類によっては再生処理できない。
  13. 紙袋は間伐材とはいえ森林資源を利用。

出所)清水化学工業株式会社ウェブサイトより(2020/6/28参照)

 

海や川のごみ問題に取り組んできた立場からすると、頭がクラクラしそうなことが並んでいますが、レジ袋規制にたいするこうした批判や誤解は広くみられるものです。

 

本当にプラスチック製レジ袋は「エコ」なのか?

こうした主張の中で見落とされている大事な視点の一つが、「散乱ごみ」に対する視点です。こうした視点はペットボトルなどほかの使い捨てプラスチックに関する議論でも、長年見落とされてきたことでした。

レジ袋は、とても薄くて軽いものです。前回の記事でも述べましたが、手に持っていたレジ袋が風で飛ばされてしまった、という経験は誰しも一度や二度はあるのではないでしょうか?きちんとごみ箱に捨てられたり、ごみの集積場所に出されたはずのごみがネコやカラスによって散乱してしまっている光景もまだまだ見かけます。レジ袋をはじめ、プラスチック製フィルムは、簡単に飛散し、最後は海へと流れていきます。

では、海ごみの中で、レジ袋はいったいどれくらいを占めているのでしょう?レジ袋規制を批判する人がよく示す資料の一つに、下の表があります。

漂着ごみ(プラスチック類のみ)の種類別割合

分類 重量 容積 個数
飲料用ボトル 7.3% 12.7% 38.5%
その他プラボトル類 5.3% 6.5% 9.6%
容器類(調味料容器、トレイ、カップ等) 0.5% 0.5% 7.4%
ポリ袋 0.4% 0.3% 0.6%
カトラリー(ストロー、フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー) 0.5% 0.5% 2.7%
漁網、ロープ 41.8% 26.2% 10.4%
ブイ 10.7% 8.9% 11.9%
発泡スチロールブイ 4.1% 14.9% 3.2%
その他漁具 2.7% 2.6% 12.3%
その他プラスチック(ライター、注射器、発泡スチロール片等) 26.7% 26.9% 3.3%
  100% 100% 100%


出所)中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環戦略小委員会(第3回)資料 p.78
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-03/y031203-s1r.pdf (2020/6/28参照)

たとえば、先のポリ袋メーカーのサイトでも

容積ベースではポリ袋は海洋プラごみのわずか0.3%なのに、現在象徴的に非難されています。原因のウエイトと対策のウエイトが乖離しています。

と書かれています。

確かに漁具の占めるウェイトが圧倒的に多く、その対策が不十分なことは言うまでもありません(そして海ごみ問題に携わってきたNGOや研究者、行政関係者は長年その対策も要望しています)。

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写真は長崎県対馬市のある海岸の様子です。地元のみなさんのご尽力で以前より大きくごみは減りましたが、それでも大量のごみが漂着し続けています。対馬は海流の影響もあり、特に韓国からのごみが多いことが特徴です。

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処分場に集められた発泡スチロール製ブイ。この黒い袋の中はすべて海岸に流れ着いた漁業用発泡スチロール製ブイです。以前は本土まで船で運ぶしかなく、処理に多額の費用がかかっていました。

漁具の対策が待ったなし、ということは誰も否定していません。

ですが、この表を読むときには、少し注意が必要です。

まず、この数値について資料には、

※1 調査対象は、海峡を中心に、黒潮、対馬海流、親潮の影響を受ける場所という観点で、過去の調査との連続性も考慮して、平成22~27年度の間に調査した5地点に平成28年度に新たに選定した5地点を追加した計10地点。(全国の状況を表すものではないことに留意。)

と書かれています。この10地点は、海外もふくむ大量のごみが漂着する場所として、地元からも早くから対策の要望が出ていたところです。東京湾や大阪湾などの人口密集地帯からのごみの流出はこの調査結果からは残念ながら把握することができません。ですので、資料でも「全国の状況を表すものではないことに留意。」と明記されています。

そしてまた、こんなことも書かれています。

※3  発泡スチロール片等、回収中に破損等により個数が変化してしまう人工物の破片は、個数の計測はしていない。

海岸清掃に参加された方はわかると思いますが、海岸に流れ着いたごみでもっとも多いのはすでに原形を留めていない「破片」です。各地の海岸には、まるで砂のように粉々になったプラスチックが堆積しています。しかし、あまりに細かすぎて、また大量にあるため、こうしたごみを回収し、数をすべて数えることは不可能です。この破片の中には、レジ袋も多く含まれています(地域差はかなりあります)。

 

破片化するレジ袋

では、日本でもっとも多くの支川をもつ淀川水系のごみのようすはどうなっているのでしょう?上流から順番に、破片ごみも含めて見ていきましょう。

まず、淀川の上流、海から約70km遡った、京都府亀岡市の保津川古浜の調査結果です。

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調査日 2018年11月11日 出所)川と海つながり共創プロジェクト(2018)をもとに筆者作成

亀岡盆地をゆったり流れている間は、レジ袋も原形を留めていて、「ポリ袋・シートの破片」に次いで多く見つかります。ちなみに「ポリ袋・シートの破片」も多くはレジ袋の破片です。

曲がりくねった急流が続く保津峡の中に入るとどんな風になるのでしょう?

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調査日 2018年12月16日 出所)筆者作成

先ほどの場所からわずか数キロ下っただけですが、保津峡の中では、レジ袋はそんなに見つかりません。大雨の際には、保津峡は大きく増水しますが、急流で揉まれて、木々に引っかかって、どんどん破れて細かくなるので原形を留めたレジ袋は大きく減ります。

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過去に私もこんな記事を書いていたのですね。

西友、レジ袋を全店舗で有料化へ(2012年6月 8日 (金))

わずか数キロ下った保津峡の中でも、レジ袋はもはや原形を留めていないことを紹介しています。

最後に、淀川が海にそそぐ河口ではどうなのでしょう?河口の海老江干潟の同じころの調査結果を紹介します。

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調査日2018年12月10日 出所)筆者作成

ここでは圧倒的にペットボトルが多くなっています。下の写真は、海老江干潟に群生するヨシの根元に絡まって破れたレジ袋です。河口部でもレジ袋は多くが破片化しており、実際の数を正確に把握することは困難です。

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いったん環境中に流出したレジ袋を「数える」ことは困難

さらに日本の河口域や沿岸部の特徴として、特に大都市やその周辺では自然海岸が少なく、コンクリートの垂直護岸が多いため、ごみがそもそも溜まりにくい、ということもあり、実態の把握はより困難です。ここに挙げた例もほんの一例に過ぎず、わからないことはまだまだ多いのは事実です。

しかし、海に流れ出たレジ袋はかなりやっかいな問題を引き起こします。レジ袋自体は、比重が1より軽いので理論的には水に浮くはずです。しかし実際には、表面には微生物が繁殖し、その分重くなって海底に沈みやすくなります。

前回ご紹介しましたが、大阪湾の底引き網漁船に同乗して調査をしていても、網を揚げるたびにたくさんのレジ袋が引っ掛かります。

河口部や漁船に同乗した調査でも、レジ袋などのシート状のプラスチックが沈んで酸素の供給が遮断され、海や川の底がヘドロ化していることをよく見ます。沿岸漁業にとっては、間違いなく脅威の一つとなっています。

そして日本近海も含めてクジラやウミガメなどがレジ袋を誤飲、誤食して死亡した多くの事例が報告されています。また、レジ袋由来と思われるマイクロプラスチックは海鳥から小魚、さらにはプランクトンまで多くの生き物の体内からも見つかっています

海に流れ出たレジ袋は、海底に沈むか、あるいは破片化してマイクロプラスチックになってしまっているため、もはや見つけることが不可能、ということであり、決して少ないわけではありません。また、海や川でレジ袋を回収しようと思っても、土や砂を掘り返したり、木々の枝に絡まったものを一つずつより分けたり、と、大変な困難を伴うことが多いことは、清掃ボランティアに参加した経験をお持ちの方はご存じだと思います(ですので、重量や容積だけではなく、個数ベース=回収に必要な努力量で数えることも重要です)。

容積ベースではポリ袋は海洋プラごみのわずか0.3%なのに、現在象徴的に非難されています。原因のウエイトと対策のウエイトが乖離しています。

と、冒頭にご紹介した企業のサイトで述べられていますが、決してそんなことはない、ということは言えるでしょう。

 

その他の疑問についても、順番に考えてみたいと思います。では、また!

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なぜ、レジ袋規制が必要なのか?

本当に久しぶりのブログ投稿です。最後に投稿したは2015年12月、消すのももったいないので、放ったらかしにしていたブログですが、最近、プラごみ問題について、講演の依頼をいただいたり、取材をいただくことが多いので備忘録も兼ねて再開することとしました。

さて、再開後最初の投稿は、レジ袋規制について。今年7月1日より全国一斉にレジ袋の有料化が始まります。「やっと」という声もあれば「そんなの意味ない」という声まで、ネット上にも実社会でも賛否両論渦巻いていますが、改めて、なぜレジ袋規制が必要なのか、考えてみたいと思います(今日の投稿はfacebookに書いた記事を編集したものです)

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なぜプラごみ全体の2%ほどしかないレジ袋なのか?という批判も確かにあります。

が、わずか2%しかないレジ袋をやめられなくて、なぜ一足飛びに残りの98%の削減に取り組めるのでしょう?レジ袋は、あってもなくても困らない使い捨てプラスチックの代表選手の一つです。どうしても必要なら、袋そのものを購入することは今でもこれからもできます。まあ、そもそもこれまでも「無料」で配られていたわけではなく、その費用は商品代金に上乗せされる形で、結局消費者が負担していただけですが。

2007年の京都市と東京都杉並区を皮切りに、すでに多くの自治体でスーパーを中心にレジ袋の有料化は実施されていて大きな混乱もなく、一定の成果を挙げていることも、国の取り組みを後押ししました。

 

レジ袋をポイ捨てする人が悪いのだから、モラルの問題だ!、使い捨てではなくごみ袋などに再利用している、という人もあります。

でも、持っていたレジ袋が風で飛ばされた経験は誰にでもあるのではないでしょうか?きちんと出したはずのごみが、ネコやカラスにつつかれて散乱している状況は珍しくありません。ポイ捨てばかりが原因ではありません。

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レジ袋は、一旦環境中に流出してしまうと生物が誤飲・誤食する可能性が極めて高いものです。薄いレジ袋は紫外線で劣化してマイクロプラスチックになりやすい一方、日光の届かない土中や水中ではいつまでも漂っています。つまり、レジ袋は多くのプラスチックごみの中でも、生態系におよぼす影響という点でもきわめてリスクの高いモノです。たとえごみ袋として再利用したとしても、石油で出来たレジ袋を燃やしてしまえばCO2となり、温暖化の原因にもなります。

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上の写真は大阪湾の底引き網漁で網に引っかかったレジ袋です。

網を揚げる度、必ずレジ袋が引っ掛かります。大阪湾の海底には300万枚ものレジ袋が沈んでいると推計されています(琵琶湖・淀川流域対策に係る研究会 海ごみ発生源対策部会 報告書、関西広域連合(2019))。海や川の底に沈んだレジ袋は、酸素の行き来を遮断し、底質の悪化、つまりヘドロ化も引き起こします。

漁師さんは「昔はいくらでも魚もエビも獲れたのに、今はごみの中から獲物を見つけてるようなもの」と嘆かれています。

衝撃…レジ袋・プラごみ、大阪湾に「900万枚」沈んでいる

関西広域連合は、大阪湾のプラスチックごみを調査した結果、レジ袋約300万枚、ビニール片約610万枚が海底に沈んでいるとの推計を11日、大阪市でのシンポジウムで明らかにした。また同日、小売りや飲料メーカーなどの業界団体と連絡会議を発足。プラごみ削減に向けた具体策を検討する。(産経新聞 2019/6/12

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提供)桂川河川レンジャー

上の写真は、2003年の台風23号による増水で木々に引っかかったレジ袋などのプラごみです。レジ袋の多くは雨が降ると町なかから川へと流れ出し、川から海へと下っていきますが、木々にレジ袋がたくさん引っ掛かり景観を大きく損ねます。観光地にとっては死活問題ですが、地域のみなさんのボランティア清掃に頼っているのが現状です。

生態系やヒトの健康への影響はまだまだ未解明な点も多いプラごみ問題ではありますが、漁業や観光など、地域にとって重要な産業にとってはすでに「現実の脅威」となっています。

 

レジ袋の原料のナフサは石油の精製過程で出てくる副産物を有効利用しているだけだ、という人もいまだにあります。

レジ袋の原料となるHDPE(高密度ポリエチレン)は、日本は今や輸入超。付加価値の低い汎用品の国内生産はどんどん減っています(下図)。たとえ副産物だとしても、わざわざ大量のエネルギーを使って海外から運ぶ(そして私たちが稼いだお金を流出させる)必要性もありません。世界がパリ協定を守るための脱石油社会の実現に向かう中で、漫然と石油由来のプラスチック製品を作り続けることは企業にとっても大きなリスクです。

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出所)財務省「貿易統計」各年度版より筆者作成

確かに今回の国の有料化は、不十分と言わざるを得ないものです。

だからと言って、「レジ袋の有料化はダメだ」というのではなく、ここからどう進んでいくのか、明確なロードマップを社会全体で示さないといけません。そしてどこの国でも、「その先」は地方が率先して取り組むことで道を切り開いています。


幸い、日本には優れた技術はあります。遅れているのは社会の仕組みづくりです。

今こそ、国にやってもらったらいい、お上に倣え、ではなく、地方からNew Normalの時代にふさわしい取り組みをどんどん広げていきたいですね。そんなことを思いながら、記者のみなさんとお話ししています。

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«いわゆる「ふるさと納税」について少し考えてみた(その2)