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2015年12月23日 (水)

いわゆる「ふるさと納税」について少し考えてみた(その2)

前回に続いて、ふるさと納税について考えてみたいと思います。

自治体間の財政力格差を是正しようと始まった「ふるさと納税」は、都市部に住む住民が住民税の一部を自分の出身地などの自治体に振り替える仕組み、と言えます(実際には納税では無く、自治体への寄付ですが)。

地方部で生まれ、その町で教育を受けた子供が、大きくなって都会に移り住み、そこで働き、税を都市部の自治体に納める、ということは、見方を変えると地方部が人々の教育費用を負担したのに、生産活動は都会で行って都市部の自治体に納税で貢献している、つまり都市部はその人の教育費用を地方部に「ただ乗り」してしまうことになります。

そこで、大人になった人々が都市部にもたらした「果実」の一部を、人々が若い時にその教育費用を負担した地方に還元しよう、というのが「ふるさと納税」の基本的な考え方と言えるでしょう。

経済学的に考えれば、教育のように自治体によって提供されている公共サービスの便益が「漏れ出している」(これをスピルオーバーといいます)と見ることができます。

また、公共財には非競合性という性質があるため、人口が多い(=税収が多い)地域ほどサービス提供コストが割安となり、一方、人口が少ない(=税収が少ない)地域ほどサービス提供コストが割高となる、という問題もあります。こうした問題を解決するために、国は地方自治体によって供給される公共財がより大きな水準になるように財政的に介入する必要があります。

もちろん、大都市とベッドタウンのように、逆に地方部へと公共サービスの便益がスピルオーバーする場合もあります。

実際には、振り替えるべき地方を出身地には限定せず、控除対象となる寄付額は税額の1割を上限とされています。さらには、当初は自分の居住している自治体の住民税の一部をそのまま振り替える制度を想定していましたが、最終的には個人住民税の寄付金控除制度を拡充することになりました。

寄付した場合、所得税と居住している自治体の住民税から控除できる金額は当初は寄付額から5,000円を差し引いた額でしたが、2009年からは2,000円を差し引いた額となったり、2015年からはこの控除額の上限を、個人住民税所得割の1割から2割まで引き上げたり、控除手続きを簡単化した「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を導入したりするなどして、制度の充実が図られています。

また、ふるさと納税に関連して、住民が希望するNPOなどの任意の地区や団体に寄付できるような仕組みもあります。こういった制度は所得税の一定割合を公益団体に提供することができるハンガリーのパーセント法が最初だと言われています。そして、この制度を参考にして、日本では2005年に千葉県市川市が「1%条例」と言われる制度が導入し、その後も北海道恵庭市、岩手県奥州市、千葉県八千代市、愛知県一宮市、大阪府和泉市、奈良県奈良市などで同様の制度が導入されています。

さらに、ふるさと納税を個人だけではなく企業が地方自治体に寄付した場合にも国に納める法人税や地方自治体に納める法人住民税を軽減する「企業版 ふるさと納税」の導入も決まっており、地方税の偏在を是正しようとする動きは年々加速しています。

では、ふるさと納税の効果は実際のところ、どの程度のものなのでしょうか?ふるさと納税がスタートして5年が経った2013年には総務省が「ふるさと納税に関する調査結果」を公表しています。これによると、

  • 寄附金額は震災の影響等により増減があるが、寄附件数については着実に増加している。
  • 「寄附金が増えた」「住民以外の者の関心が高まった」と都道府県の約6割、市区町村の5割程度が考えている。
  • 「情報発信を活発に行うようになった」「地域の魅力を高める取組を積極的に行うようになった」と都道府県の3割、市区町村の2割弱が回答。

というように肯定的な評価が多い一方で、

  • 4割強の地方団体が、「制度が十分に活用されていない」と回答。
  • 「寄附金の受付や申告に係る事務負担が増加した」と都道府県の約6割、市区町村の約3割が回答。

といったように課題を指摘しています。

また、ネットでは「ふるさと納税は地域経済にどの程度のプラス効果があるかを試算してみた。~納税額全国3位北海道上士幌町のケース~」(保田 隆明、ダイヤモンドオンライン、2015年3月17日)というような記事もありました。上士幌町のふるさと納税による調達金額は全国で3位の約10億円(2014年度)と見込まれているそうで、上士幌町やその周辺地域への経済波及効果は約12.2億円、域内GDPを約6.6億円押し上げ、雇用者誘発人数は82人と推計されたそうです。

しかし、「ふるさと納税ブームに潜む地方衰退の「罠」 無視できない、3つの大きな歪みがある」(木下斉、東洋経済ONLINE、2015年12月9日)のように、

  1. 税金頼みの地方産品の「安売り」が招く歪み
  2. 地元産業の「自治体依存」の加速という歪み
  3. 納税増加=歳出拡大という地方自治体財政の歪み

という、大きな負の影響を懸念する意見も少なくありません。

また、「ふるさと納税制度の検証」橋本恭之・鈴木善充(日本財政学会第72回大会報告論文, 2015)では、実証研究をもとに、

  • ふるさと納税が導入されて以降、寄附金額に占める税収ロスの比率は毎年上昇し、2013 年度には77%にも達している。また、2010年度に実施された自己負担額の引き下げは、実質的な寄附の増加につながらなかった。
  • ふるさと納税制度による地域間の税収格差是正効果は小さい
  • 各市町村のふるさと納税の状況からは、歴史的建造物の保存への寄附など明確な寄附先を提示できた自治体では返礼品を提供しなくても、寄附を集めることに成功している。また大都市では、大口の個人寄附を受け取っているケースが多く、一人当たりの寄附額が大きい。一方、牛肉や海産物など特徴ある特産品を多くもつ北海道の市町村では、返礼品を送付することで多くの寄附を集めることに成功している。
  • ふるさと 納税制度の活用には、公式ホームページの充実と民間のポータルサイトの連携が、返礼品の還元率に頼ることなく、寄附を増加させることにつながる。
  • ふるさと納税による寄附額は、ふるさと納税に力を入れている一部の自治体に集中している。
  • ふるさと納税制度では、寄附税制の効率性が満たされていない可能性があること、高額所得者に有利な節税手段を提供するものとなっていること、ふるさと納税に関する情報公開が不十分であること、小規模団体ではふるさと納税制度を十分に活用できていない。

といった点を指摘し、改善策として、

  • 地方税について設定されている特例部分を段階的に廃止する。
  • ふるさと納税についての情報公開の最低限の基準を統一し、ふるさと納税の実態を把握できるようにすることする。
  • ふるさと納税への先進的な取り組み事例を紹介することで、小規模な地方団体でのふるさと納税制度の活用を促進する。

といったことを提案しています。

出遅れた自治体も、「今さら」個人向けの返礼品で競うのではなく、寄付したくなる仕組みづくり、また来年度創設が検討されている法人税版のふるさと納税にこそ、今、注力すべきだと思います。実際に、ふるさと納税をめぐっては興味深い取り組みも始まっています。

例えば、京都府南丹市では、集落(区)単位で地区を指定して寄付できる新制度を導入した結果、開始1ヶ月足らずで前年度総額の半分に迫る寄付を集めることに成功しています。これなどは、出身地を離れた人が、自分の両親が住む地域を直接応援できる仕組みとして注目された結果かもしれません。他にも地域のニーズに応じた寄付をできる仕組みが大分県日田市などにもあるそうです。

「ふるさと納税、地域指定に好反応 京都・南丹市」(京都新聞 2015年1月15日)

また、埼玉県和光市ではふるさと納税制度による市への寄付金を活用して、来年度から、看護師や保育士などをめざす市内在住の学生に対し、市内で就業することなどを条件に就学資金として年間2万円を支給する、という取り組みを始めるそうです。人手不足が深刻な中、地域内の医療機関などを間接的に支援でき、かつ若者の就学・就業支援につながる、寄付先として明確な目的・使途のある取り組みと言えるでしょう。

「ふるさと納税、学費に活用 和光市」朝日新聞(2015年12月17日)

今後、法人向けのふるさと納税もスタートする中で、「何を目的に寄付金を集めるのか?」「寄付金がどのように使われたのか?」をきちんと示すことはより重要になってくるでしょう。特に企業は、NPOなどへの寄付でも「資金使途を重視したCSR活動の一環」という点は非常に大事にされています。自然環境の保全や文化財の保護といった「わかりやすい使途」を持たなくとも、たとえば大都市近郊のベッドタウンならば「本市在住の御社の社員さんが安心して働けるように子育て支援頑張ります!」といった、ある意味で企業活動を間接的に支援することで寄付を集めることもできるかもしれません。

先日COP21が終わりましたが、たとえば山間部などであれば、企業として今後より重要になってくる環境活動の受け皿にも使えると思います。「納税(寄付)額+カーボンオフセット」というような仕組みを作ることもできるかもしれません。たとえば、京都府では企業参加の森林づくりを進めていますが、こうした制度と組み合わせることも可能かもしれませんね。

環境改善への寄付、という意味では、日本ではまだ無理ですが、たとえば下水道整備に充てる資金を寄附してもらい、水質改善量を返礼にあてるというようなことも、将来的には考えられるでしょう。レジ袋有料化を進める自治体では、レジ袋有料化によって生じた売り上げを寄附してもらう、という仕組みを持つ地域も多くあります(例:「レジ袋有料化の取り組み」(名古屋市) )。こうした既存の政策と組み合わせることでと、より制度の実効性を高める、ということも出来るかもしれません。

そして当たり前のことですが、法人二税など企業からの納税額は極端に東京に集中していますが、まず、自分たちのまちはどれくらいの税金を「逃がしているのか」を定量的に把握しておくことも行政サイドとしては大事でしょう。実際、地方レベルで産業連関表を整備されているところもありますが、そういう地道な取り組みを前段階としてしておかないと、有効な戦略も立てられません。

facebookでの議論では、自治体がこれからの法人のふるさと納税獲得に向けて取り組むべきこととして、

  1. 寄付に対する成果報告
  2. 企業でも財布の紐を緩めるほどの繋がりの創造
  3. 自自治体が足りていない(税金を逃している)原因の特定
  4. 海外企業からの寄付の余地検討

とまとめてくださった方がありました。大事なのは目先の寄付を集めることだけではなく、そういう仕組みづくり(そこがに日本はえてして苦手なのですが)だと思います。

以上、ふるさと納税について、(少し)考えてみたことでした。

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